掲示板『魔王だけどなにか質問ある?』

【どこかの場末のカルト的掲示板】にて


 1:Name 魔王

 我、魔王だけどなにか質問がある?


 3:Name くらきもの

 魔王さまの好きな食べ物はなーに?


 5:Name 魔王

 我はパスタ系が好きだな

 作りやすいし値段はお手頃なのに満足感が大きい

 ナポリタンも好きだぞ


 7:Name くらきもの

 >我はパスタ系が好きだな

 キャラをシミュするにしてもさあ

 もっとさあ


 8:Name 魔王

 パスタを舐めるでない

 パスタを支配する者こそ地中海を支配するに等しいのだぞ

 それともなにか魔王はコウモリでも食べていろと?

 衛生観念が皆無の魔王ははたして魔王らしいといえるのか?


 10:Name くらきもの

 パスタに俄然反応するじゃないの

 この魔王さまにたしかな魔王像があるなら付き合うけども


 12:Name くらきもの

 まあうちら暇だしね

 それで魔王さまは世間をなにかと騒がしているけどさ

 なんであんなことをしてるのー?


 15:Name 魔王

 流れで

 仕方なく


 18:Name くらきもの

 うぉい!

 もっともらしい理由を作ってこいよ!


 20:Name 魔王

 まあ待て

 貴様らも本人が望む望まないのにもかかわらず立場を求められることもあろう

 我もそうなのだ


 22:Name くらきもの

 立場を求められて流れで仕方なく

 世界を暗黒に染めあげようとするなや


 24:Name 魔王

 仕方ないのだ


 31:Name くらきもの

 どう仕方ないのよ


 34:Name 魔王

 我の前世が魔王だったからだ


 36:Name くらきもの

 >我の前世が魔王だったからだ

 もうキャラがボロボロやんけ

 ファンタジー世界の魂がオレたちの世界に輪廻転生したとでも?


 42:Name くらきもの

 >ファンタジー世界の魂がオレたちの世界に輪廻転生したとでも?

 論的にはアリじゃないか?

 断層次元収束化現象――別名【ダンジョン化現象】だけどさ

 この現象は【標準世界】と【ありえた世界の可能性】が繋がりかけている状態だ

 魔法が発展した世界と繋がりかけて輪廻も繋がったという考え方は面白いぞ


 45:Name くらきもの

 そーいやモンスターも別世界の【災害や事象や法則】といった概念が

 次元境界内でそう形づいているかもしれないんだっけ?


 48:Name くらきもの

 素直に別次元の生命体……

 えっとモンスターの可能性があるらしいけれど

 容姿がちがう可能性は高いみたいだな


 49::Name くらきもの

 一番最初のダンジョン化現象はオレたちの世界のゲーム機を参考にして

 こちら側のルールを次元境界内に当てはめて浸食してきたわけだし

 モンスターの姿恰好はゲームをある程度参照してんだろうな 


 48:Name くらきもの

 別世界の魔王と呼ばれた災厄が標準世界で受肉した

 そうして標準世界でも同じように世界を暗黒に染めあげようとする

 まあ興味深いか


 51:Name くらきもの

 さあ楽しく陰謀論を語ってまいりましょうー


 ※※※


 自室で怪我の手当てをしながらスレを立てたボクは、掲示板を閉じた。

 スレの話が脱線しそうだったので、このままスマホを置いておこう。


「……まあ、他の世界との繋がりを考えるよなあ」


 魔王だけどなにか質問スレを立てたのはボクだ。


 別に自己顕示欲を満たそうとしたわけでもなく、掲示板の住民をからかおうとしたわけでもない。

 彼らもボクが噂の魔王さまだなんて欠片も思っていないだろう。


 ボクが感じた疑問も同じように抱くのか、知りたかったのだ。


「魔王と呼ばれた災厄が受肉した線は……ないとは思うけど……」


 アルマには受肉した(設定)とは言っているが、ボク自身は信じていない。

 それに超つよつよ存在が受肉したのならば、もう少し身体が強くあってもいいと思うが、標準世界のボクはどこにでもいる人間だ。


 ちなみに廃工場で次元境界内の力を使えたが。


 今はもう、使えなくなっていた。

 ステータス画面もひらけなくなっている。


 もしや追いつめられたら力が発現するのではとも考えた。


 しかしアルマたちに取り囲まれての命綱なしロープ渡り中、ちょーっと試しに足をすべらせてみたら、身体が傷だらけになってしまった。

 好奇心は身をほろぼす……本当に……。


「……ちゅー太郎は自動召喚設定のままにしておくか」


 発現条件はわからなくても、標準世界で力がまた使えるようになれば、ちゅー太郎が勝手に呼びだされるだろう。

 それを目安にしておこう。


 それにしてもだ。


「別次元の魔王、か」


 前世なんて信じていなかったけれど、ここ最近は考えることが増えた。

 というより、ミコトちゃんに指摘されて意識するようになった。


 ミコトちゃんとの会話を思い出す。


多次元可視眼ビジョンアイ? それがミコトちゃんの目の力?』

『うん、その人の適性や性質や可能性が見える目だよ』


 特別な目だ。

 ボクがかっこいい・めちゃかっこいい・かっこよすぎると褒めちぎると、ミコトちゃんは照れ照れになりながらも言った。


『だからね、みそらおにーさんと初めて会ったときはビックリしたの』

『……とんでもない邪悪な人間だと思った。そう言ってたね』


 得たいのしれない666シリーズを取得しているわけだし、なにかが見えたのだろう。

 それで澄んだ闇とは不思議な表現だけど……。


『ミコトね。スキルはその人が持つ、別の可能性を引き出すものと思っているの。

 だって、ダンジョン内だとこっちではできないことができるでしょ?』


 ボクは一番最初にとったスキル【666の導き】を思い出した。

 たしかめてはいなかったが、あのスキルをとってからボクのステータスが跳ねあがったのは間違いないと思う。


『みそらおにーさんが、何者かはわからないけど……ただ』

『ただ?』

『みそらおにーさんと、アルマおねーさんは色や文字がよく似ているの。

 なんていうかね、同じ可能性、同じ法則スキルで生きている人。みたいな』


 それは、前世といってもよいものなのか。

 ひとまずアルマにはこのことを秘密にするよう、ミコトちゃんにお願いした。


 ボクはテーブルに頬杖つきながら、666トゥを唱えたときのことを思い出す。


 666の軍勢トゥ・ジェヴォーダンのときも。

 666の葬送トゥ・テジィウィジーのときも。

 


 666の葬送トゥ・テジィウィジーに限っては、意識すら溶けこんできた感覚があった。


 もし、それが別世界の魔王であるならば。


「……危険だよな」


 自分の意識が知らない誰かに奪われる。

 取りこまれてしまう。

 それも暗黒の存在によって。


 それはちょっと……。

 ちょっと……………………。


「…………右手にすべきか、右目にすべきか」


 とりあえず危険性は脇に置いて。


 右手か、右目か、それとも左目か。

 あるいは自作の紋章を手に宿すべきか。

 それとも、額になにかしらの痣みたいなのを描くべきなのか。


 邪悪な存在がボクの身体を奪おうとしたとき、身体のどこの部位が一番かっこいいのか、ボクは真剣に考えはじめていた。

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