第26話 配下集合!②
自宅にやってきた三人の美少女。
これからボクの身にふりかかるであろう
だが、ここで心折れてはいけない。
精神的な敗北は、そのままデッドエンドに繋がるから。
ボクはゆっくりと息を吸う。
「すぅうーーーーーーーーーーー」
肺にいっぱい酸素を溜めこんでから、今度は静かに吐いていく。
「はぁーーーーーーーーーーーー」
動悸はいくらかおさまった。
問題点……いや、確認すべきことをハッキリさせよう。
三人がなぜ家にいるのかだが、アルマとクスノさんは昨日の配信を見たからだろう。馴染みのスーパーの袋がテーブルに置いてあったから、一度母さんが帰宅してきて、三人とバッタリと出くわしたのかもしれない。
家の鍵の問題はそこでクリア。
雑かもしれないが、このあたりは推察でいい。
アルマと母親が出会ったのはマズイが、受肉設定は広げていないので、彼女の反応をみながら前世憑依型・母親洗脳型と話をいろいろ合わせていこう。
あとはどうやって住所を調べたのとかはあるが。
ささいな疑問は粉微塵にして呑みこんでしまえ。
「みんな、ボクの看病のためにわざわざ家にきてくれたの?
嬉しいよ、ありがとう!」
彼女たちを拒絶するような発言は絶対に避けろ!
ボクの言葉で、室内の空気がすこし和らいだのを感じた。
よし……っ。
まず確認すべきことは、それぞれの情報深度か。
アルマはボクを魔王だと信じこんでいる。
クスノさんは魔王を悪魔だと信じこんでいる。
これによりボクは、高層ビルと高層ビルのあいだを命綱なしで綱渡りする状況になった。
なにかのはずみで落下しかねないのに、さらにミコトちゃんが登場。
ミコトちゃんはいわば暴風のようなものだ。
少女がボクをどう思っているのかとか、魔王の正体を知っているのかとか。
ボクが寝ていたときの空白期間でどんな情報のやり取りが行われていたのとか、諸々確認しなければ立ち回れない。
つまりこの場のキーマンは、ミコトちゃんだ。
ならば、まず真意をたしかめなればいけない。
「ミコトちゃん、昨日の配信を見たよ。びっくりしちゃった」
食らえーーーーーー、ボクの牽制パスぅ!
「ほんと? みそらおにーさんにドキドキしてもらいたくて……みんなの前で宣言しちゃった。
これが大人の恋のかけひきってやつなのかな……?
ミコト、まだ小学5年生だからよくわからなーい」
ミコトちゃんのダイレクトシュートが返ってくる……!
ボクの
いいや、どうにかして受けとめろ‼
なんとかボールを返せ‼
見ろよ! アルマは鞄から分割大鎌を取りだしていそいそと組みはじめているし、クスノさんは包丁を握ってたたずんでいる!
綱渡りのロープが、大きくたゆんだ気がした。
返答をしぼりだそうとしていたボクに、ミコトちゃんがクスクスと笑う。
「みそらおにーさん、そんなにビックリしないでよー」
「ははは、さ、さすがにね」
「昨日のことは、初めてのお友だちで舞いあがって、ちょっと大げさに言ってみただけなの。警察につーほーしようとしたリスナーもいたけれど、DMでちゃんとそう説明したし。
ふふ……でも、みそらおにーさんが困るならそのままでもよかったかもー?」
「ははは……ミコトちゃんは困った子だな……」
ほんとうに……困った子だなあ……。
首の皮一枚状態でもなんとか繋ぎとめたいボクに、ミコトちゃんがトコトコやってくる。
そして、コショリとささやいてきた。
(おにーさん、あの魔王さまの雑用係なのね?
お友だちも美人配下の二人だし、ミコトとってもビックリしちゃったー。
……おにーさんがやけに強いのもそれ関係? わけありみたいだし、昨日こっそりと撮影していた動画、ミコトでひかえておくねー)
ボクは笑顔でこくこくとうなずいた。
(…………おねーさんたちには『ミコトとみそらおーにさんは、ただのお友だち。仲良く遊んでくれる約束をしただけ』そう伝えておいたけど、だいじょーぶだよね?)
ボクは笑顔でこくこく、こくこくと、連続でうなずいた。
まわりの空気を読み、合わせてくれる子みたいだな……。
それならひとまずは安心って……。
いや、そんな立ち回りができる子が、配信中わざわざ恋人宣言したんだよなあ……?
「お二人とも、なんの話をされているのです?」
アルマの問いに、ミコトちゃんは無邪気そうに微笑んだ。
「今度のデートの話だよー」
部屋の圧が一気に高まった。
アルマは大鎌を組み終えたし、クスノさんは包丁を手にしたまま「矯正。修正。反省。矯正。修正。反省」とつぶやいている。
慌てて否定しようとしたボクに、ミコトちゃんがスマホを見せつけてきた。
その口元が『ど・う・が』と動く。
蜘蛛……この子は、やっぱり蜘蛛……!
綱渡り中のボクを糸でからめとってくる蜘蛛…………!
がんばれえ…………ボク…………!
負けるなっ……くじけるなっ……!
日頃の魔王さま演技でつちかった、素知らぬフェイスの出番だ……!
「ミコトちゃんとは
「えー、デートだよー」
「はは、たしかにデートかもしれないね。ごめんごめん」
「ぶーっ」
余裕ぶった態度で冗談っぽい雰囲気にすることは成功……!
ここで言い訳を重ねても自分がどんどん不利になるだけだ!
努めて……冷静に……頭を……ふりしぼれ……!
でなければ死ぬぞ‼‼‼‼‼‼
うん……っ。なんとか、ミコトちゃんの立ち位置は把握した。
ボクの出方次第ではあるが、そうそう事を荒げるつもりはなさそうだ。
なら次は、アルマとクスノさんが少女の存在をどう納得するかだ。
まずはゆるーいパスを送ろう。
「ミコトちゃんとは、友だちいなかったキッカケで仲良くなったんだ。
二人共、仲良くしてくれると嬉しいな」
ボクの発言に、アルマとクスノさんはすこし眉をひそめた。
「そう……お友だちがですが」
「そうなの。お友だちが……」
存外にキラーパスになったみたいだ。
ボクたち全員にとってクリティカルな話題だったか……。
ただ、まあ、空気はちょっとゆるんだ。
ボクが恐れていたより、三人のあいだで情報は共有されていないようだ。
綱渡り状態なのは変わらないが、デッドエンドは回避できたはず。
「さーてと……ぐっすり寝たら体調も良くなったし、ボク一人でもう大丈夫だよ。みんな、心配しにきてくれてありがとう。今日は嬉しかったな」
あとは軟着陸するだけだ……!
「
「さま?」「さま?」
アルマの敬称に、クスノさんとミコトちゃんが首をかたげた。
アルマ……ッ!
手札をちらつかせてきたか……アルマッ!
三人の中で情報アドバンテージが高いのは彼女だ。
魔王の正体がボクと知っているのは彼女ただ一人。彼女がクスノさんに黙っているのだって、『外と内から支配するつもりなのですね。さすが魔王さまです』と考えてのこと。
手札をちらつかせてきたアルマは、しれーっと説明する。
「みそらさまは雑用係ではございますが、魔王さまへの貢献ははかりしれません。
わたしもお世話になっていることですし、敬意をこめて『様』とお呼びいたしました」
なんだそのとってつけたような嘘は……!
うすーくでも、魔王とボクを繋げようとするんじゃない!
「みそらさまのお母さまから看病をお願いされたのはわたしです。
責任をもって、わたしがみそらさまを看病いたしましょう」
母さん!!!
あなたは大鎌をかまえるような子に看病を頼んでしまったようですよ……!
「大丈夫、みそら君の看病はあたしがやるわ。
料理の仕上げもあるし……ぐっすりと寝たあとは栄養たっぷりの料理を食べて、元気をつけてもらわなきゃだものね」
クスノさん!!
料理は嬉しいけれど、せめて両手のW包丁は手放してから言ってくれ‼
「ミコトは子供だから、みそらおにーさんをじょーずに看病できないかもー……。
ごめんね、ミコト、ちっちゃくて役立たずで……」
ミコトちゃんが同情を誘ってきた!
この子はやはり、子供が武器になるのを知っている……!
小学生は凶器だと知っている……!
ボクに『誰を選ぶか、もちろんわかっているよね?』と三人の視線が突き刺さる。
あちらを立てればこちらが立たず、全員選ぶのももうダメっぽい。
だからってこのまま黙っていれば、母親二人とも引き下がらなかった大岡裁きになってしまう。
考えるんだ……考えろ……か、考えろ……。
どうすれば……逃げ……ダメ、絶対に追いかけてくる……。
ボクはいったい……パス、シュート……だれにボールを…………。
考えぬいて酸素が足らなくなり、金魚みたいにパクパクと口をひらいたボクは、ぽつりとつぶやいた。
「サッカー……」
それは一筋の光明だった。
美少女三人が怪訝な表情をしていたが、ボクは深呼吸して叫んだ。
「サッカー! しようよ‼‼‼ 身体も治ったみたいだし⁉ 寝すぎて元気がありあまっているからさ!
友だちとサッカー! ずっとしたかったんだけどね!
友だちいなかったからさ‼‼‼ 憧れていたんだ‼‼ 友だちとサッカー‼‼」
強引な筋だと思う‼‼‼
だが、強引にでも筋を作るしかないんだ‼‼‼
美少女三人はきょとんとしている。
判定は⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉
※※※
セーーーーーーーフでした!
みんな『友だち』に思うところがあったようで、公園で仲良く玉蹴りをしました!
生きのびた!
ボクは生きのびた……!
ロープを渡りきったんだあ……!
やったああああああああああっ!
が、しょせん場当たり的な対応だったようで、綱渡り中なのに変わりなく。
そして、ボクをとりまく状況はさらに加速する。
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