第24話 地味男子、社会的危機が迫る④

 自宅マンションに帰ってきたボクは、自室の机でぐへーとつっぷした。


 ミコトちゃんと仲良くなれたのはいいが、ボクをとりまく状況はなーんも変わっていない。


 黒森アカイック学校は、これから魔王であるボクをつけ狙うだろうし。

 トゴサカ外部からさらに迷惑冒険者がやってくるだろう。

 クスノさんの監視もさらに強くなるから、今までのようにちょっとそこらで魔王に着替えることができなくなる。だからって魔活をサボれば、アルマの不満ゲージがみるみる溜まってしまう。


 身バレが、ちゃくちゃくと近づいていた。


 ダンジョン内では尊大で傲慢な最強な魔王さまでも、こっちでのボクは平凡で地味で冴えない高校生だ。

 リアル凸アタックされたらとてもじゃないが対処できない。


 ボクは頬杖をついて、はああああっと重いため息を吐いた。


 それに、考えることは他にもあった。


「……666の導き、か」


 ボクのスキルツリーに表示されたスキル【666の導き】。

 スキル説明は特になくて、ただかっこいいからだけで取得した。


 この【666の導き】は基礎スキルだったようで、取得することで他の666スキルが一気にスキルツリー画面に解放されたのは覚えている。


 基本的に、汎用スキル以外のスキルは人によって異なる。

 汎用スキル以外のものは『個人スキル、またはユニークスキル』と呼ばれていた。


 たとえばミコトちゃんは、おそらくスキル【魔糸操作】持ちだ。

 クスノさんのスキル画面では【狙撃系】スキルがたくさん表示されていることだろう。


 魔糸操作も狙撃系スキルも、ボクのスキル画面では表示されていない。個人差ってやつだ。


 ダンジョン適応指数は、スキルポイントやステータスランクにかかわるが、スキルの種類にも関係する。


 特にスキルは、個人の適性がもろにでる。

 性格がスキルに反映されるとも聞くが、本当なのかはわからない。信憑性がうすく、血液型占いみたいなものらしいが。


 たしかなことは、世界に一つだけのスキルなんてないこと。

 珍しいスキルであっても他の誰かが持っていたりするのだ。


 しかし【666の導き】なんて誰も知らなかった。


「ボクが調べるのが下手なのだけかもしれないけど……」


 頭をがしがしと掻く。

 ダンジョンの攻略情報を調べるのは好きではなかったが、最近自分の身に起きたことを考えて、さすがにネットや本で調べてみた。


 しかしそれらしいスキルは見当たらない。

 むしろ悪魔に関する情報だけがどんどん手に入った。


「……ないない。ボクが悪魔だなんて」


 ボクはどこにでもいる普通の人間だ。

 ただの魔王なりきりプレイ野郎だったはずだ。


 だが、SSSランクというありえないステータス。

 獣の軍勢といい、自分はいったい何者なのかわからなくなってくる。

 誰かに相談したいけど、相談相手なんていないよなあ。


 アルマはダメだ。

 自分が何者かわからないなんて言えば、魔王の演技をしていたのがバレる。

 ザクッザグザグザーッとされかねない。


 クスノさんもダメだ。

 自分はもしかしたら悪魔なのかもしれないと言えば、ゾグシュッグチャグチャッとされかねない。


 想像で心が折れないよう効果音のフィルターをかけたけど、余計に怖いな……。

 はあ……黒森に目をつけられたこともあるし、ホントどうすればいいのやら……。


「……魔王さまが、ボクが思うより強いのは助かったかな」


 余計に状況を悪化させている気もするが。

 まあ、簡単にやられないよりはマシかな……。


 とはいっても、リアル凸アタックされたら一発でやられる貧弱ボーイだ。

 まあこっちの世界で、わざわざボクに危害をくわえて、ましてや殺そうとする人なんていないか。

 ふつーに犯罪だし。


「……殺されないだけマシか」


 死ななきゃ安い。今はそう考えよう。


 ひとまず黒森の様子がどうなっているのか、スマホで配信サイトにつなげる。

 うじゃうじゃと、魔王さまに関する生配信チャンネルがいっぱい表示された。


 ボクがうへーと顔をしかめていると、とあるチャンネルに気づく。


「あれ……?」


 八蜘蛛やぐもミコトちゃんのチャンネルだ。

 配信中のようで、勢いランキングの上位にきている。


 ミコトちゃんも配信をやっているんだなー。

 すっごく人気だなー。

 怖いぐらいに綺麗な子だもんなー。


 そんな呑気な気分で、ミコトちゃんのチャンネルをひらいた。


『――うんー、ミコトねー。今までのことは反省したのー。

 ある人に出会えて、考え方を変えられちゃった、みたいな?』


 画面にはミコトちゃんが映っている。背景はデフォルメした蜘蛛のイラストが描かれていて、なんともらしい。


 ミコトちゃんは頬を染め、うっとりした表情でいた。


『うん、そうー。男の人とお付き合いをはじめたの。

 今はまだ遊びの関係だけどー……一生付き合う覚悟はあるってうなずいてくれたのー。

 包容力のある素敵な人でー……え? そうだよー、年上の男性。

 名前? 鴎外みそらおにーさんだよー』


 ボクはスマホを手にしたまま、十数分ほど放心する。

 小学生が、社会的に殺しにやってきたのだけど??????

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