第9話 地味男子、金髪巨乳のウサギと出会う

 綺麗な湖のある畔ダンジョン。

 ダンジョン進行役のお姉さんが、十数名の子供たちに元気よくたずねた。


「みんなー、回復ポーションは持ったかなー?」

「「「はーい!」」」

「武器はちゃんと装備しないと意味ないからねー?」

「「「はーい!」」」

「怪我してもゆっーくりと自動回復するダンジョンだけどー、無理はしないことー。お友だちと仲良くダンジョン攻略しようねー?」

「「「はーい!」」」


 子供たちは笑顔でペコペコ剣やペコペコハンマーをぶんぶんと振る。


 ペコペコシリーズは殺傷力皆無の武器で、雑魚モンスターが嫌がる波動がでている。このシリーズでぺこっと殴ったり斬ったりすれば、雑魚モンスターはあっというまに逃げていく代物だ。


 ボクも笑顔でぶんぶんとペコペコ剣を振りながらこたえた。


「はーい!」


 ちょっと、空気がかたまる。

 子供たちが『だれこの人?』みたいな視線で見つめてきた。


 ダンジョン進行役のお姉さんはしばらく無言でいたのだが、さすがプロ。

 ボクを無視して進行をはじめる。


「それじゃあ今からダンジョン攻略が得意なお友だちを呼ぶねー?」

「「「はーい!」」」

「はーい!」


 子供にまぎれて、ボクはぶんぶんとペコペコ剣をふるう。

 ボクは都市主催の『わくわくダンジョンこうりゃく』にきていた。


 学園次元都市トゴサカは、ダンジョンとの共存を目指した都市。

 だからこうやってダンジョン攻略に慣れ親しんでもらうためのイベントをひらいていたりする。

 

 ひらがなカタカナばかりのイベント名から、子供向けなのはおわかりいただけるだろう。そんなイベントに、なぜボクが来たのか。


 もちろん、現実逃避だ。


 アルマとのコミュニケーションミスによる、挑発をさらなる挑発でかえした結果、聖ヴァレンシア学園の全生徒との戦争をひかえた状態となった。


 プレッシャーがばしばしと胃に襲いかかる。胃が溶けたかと思った。

 少しでも癒しが欲しくなり、あるいは童心のように、ダンジョン攻略を無邪気に楽しんでいた頃を思い出したかったのだ。


 幼児退行ではない……はず。


 ちなみに今日、学校は授業がある。

 休むのはもちろんダメなことだが、一人だけの時間がどうしても欲しかったのだ。まあ基本いつも一人なわけだが、能動的な一人と受動的な一人はまた孤独感がちがうわけでして。


 ただ出かけ際に、母さんに止められていた。


『みそら君ー。学校に行かないのー?』

『今日は……行かない……。ボクはボクの原点を探しに行くから……』

『む! この雰囲気は、中学生の頃のダークみそら君……!

 だったら言っても全然きかないのは、お母さんわかっているよー。

 なにせ自分の世界にどっぷりなんだもん』

『ふっ……闇がボクにささやくのだ……。自分を探せとね……』

『おゆはんはハンバーグだから早く帰ってくるのよー?』

『はーい』


 母さんに心配かけたくはないが、迫りくる全面戦争を前に現実を忘れたかった。


 でも学校を休んででもイベントにきて良かったな。

 あのままではダンジョン攻略そのものがイヤになっていたかも。


 子供たちの無邪気な笑顔は癒されるなあ。

 ちょっとだけ前向きになってきたよ。


 ダンジョン進行役のお姉さんがステータス画面を操作して、音楽を流す。

 

「はいはいー! みんな注目ー、うさうさガールの登場だよー!」


 学園次元都市広報キャラ、うさうさガールがあらわれる。

 うさうさガールは音楽に合わせて、可愛く歌いはじめた。


「ぴょんぴょんぴょん、うさうさぴょん♪」


 うさ耳と可愛らしい衣装を着て、ぴょんぴょんと踊っている。


「うさぎの耳はなぜ大きい? うさぎの足はなぜ速い?

 ぴょんぴょんぴょん、うさうさぴょん♪

 それは怖いモンスターから逃げるため♪」


 広報キャラクターだから衣装に肌色は全然ない。

 それでもご立派すぎる胸は隠しきれていなくて、踊るたびにバルンッとふるえる。

 見ているボクが照れるぐらいだ。


「安心安全ダンジョン攻略~♪

 危なくなったらみんなで逃げよ♪ みんなもうさぎになっちゃおう♪

 ぴょんぴょんぴょん、うさうさぴょん♪」


 うさうさガールはまだ慣れていないのか、頬が赤い。

 恥ずかしながらがんばって歌ってはいるものの、やはり表情はどこか固かった。


 そして、うさうさガール――もとい、園井田そのいだクスノさんと目が合ってしまう。


「うさうさぴょんぴょっっっ⁉⁉⁉ あ、あな、あなた……!」


 覚えられていたかあ……!


「あ、あはは……」


 ボクは笑顔をひきつらせて、この場から脱兎のごとく駆けようとする。

 しかし、逃走先の地面がはじけ飛ぶ。


 顔面真っ赤の園井田さんが腰のホルスターから人参型のマジックガンを抜き、逃がさないとばかりに魔導光を放っていた。

 彼女は笑顔を固めたまま、子供たちに告げる。


「みんなー、あのお兄さんの顔をみてー? とっても怖がっているよねー?

 武器を誰かに向けるとすっごく怖い思いをさせちゃうからー、ぜーったいに人には向けちゃダメだからねー?」

「「「はーい!」」」

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