第4話 地味男子、身バレする
放課後、誰もいない視聴覚室。
ボクはS級美少女の呼び出しに心臓がドキドキしていた。
もちろん悪い意味でだ。
愛の告白だと思えるほどボクは呆けていない。
今まで接点のなかった甘城さんがボクを呼び出した理由を考えろ。昨夜の魔王がボクだと勘付いた可能性があるだろう。
一人でなにをやっていたのかと追究されたら答えようがない。
日々の鬱憤晴らしで、魔王なりきりプレイをしていました。
言えるはずがないのだ。
絶対に、なにがなんでも白を切る!
「――お待たせしました、鴎外君」
「わっ⁉」
背後からの声に、ボクの心臓が破れるかと思った。
ふりかえれば、甘城さんがちょこんと立っている。
長いまつ毛をゆらしながら、じーっとボクの顔を見つめていた。
「あ、甘城さん……。う、ううん、待ってない待ってないよ」
「そうですか。急な呼び出しでしたので、失礼ではないか心配していました」
「そ、それでなんの用事?」
用件なんてわかっているが知らないフリをした。
「はい……それはですね」
甘城さんはこくんとうなずいたあと固まった。
どうしたのかボクが不安になっていると、彼女は視聴覚室を歩きだして無言でカーテンを閉める。はては扉の鍵までかちゃりと閉めた。
怖い。なにか一言ぐらい言って欲しい。
……しかし、独特な間だな。
クラスでは甘城さんにがんばって話しかけている男子もいるが、うまくはぐらかされているというかテンポが合わないのか、すぐに退散している。
ちょっと浮世離れした子だ。
ボクみたいに存在が消滅しかけているよりは全然いいけどさ。
「これで大丈夫ですね」
「……甘城さん、なんでカーテンや鍵を閉じたの?」
「わたしたちの密会を勘付かれたら困るかと思いまして……
しょっぱな核心を突いてきた。
手のひらがじっとりと汗ばんでいく。
甘城さんは涼しい顔で立っているせいで考えが読めない。
ボクはずっと考えていた会話パターンを展開する。
「まおうがいでる? えーっと……いきなりどうしたの?」
「鷗外君は、魔王ガイデルさまですよね?」
「ごめん、ちょっと話がわからない。もしかして誰かと勘違いしている?
ネットで知り合った人と間違っているとか……?」
どーですか、この演技。
伊達に魔王なりきりプレイを楽しんでいるわけじゃない。
それに、一人きりの時間でいっぱい会話パターンを用意したんだ。いかようにも話を持っていく自信があるぞ。
……自分で言っていて、ちょっとだけ悲しくなったな。
「勘違いですか? わたしに正体を隠さなくても大丈夫ですよ」
「ボクに隠す正体なんてないけれど……」
「じー」
「にこっ」
困り笑みを浮かべておく。
このまま逃げきるぞ。
「昨晩の件でお伝えしたいことがあるのですが」
「昨晩って……ボクはずっとバイトしていたけど……なにかあったの?」
「昨晩の配信、切りぬき動画ですが……たいへんバズりました」
「へ?」
甘城さんはマイペースにスマホの画面を差し出した。
タイトルは【悲報】魔王降臨す。
『我は魔王! 魔王ガイデルである! 貴様ら人類の頂点に立つべき支配者よ!』
動画では、魔王コスプレしたボクが威勢よくそう宣言していた。
「ふぉおおおおお⁉」
10万……100万……え⁉⁉⁉
再生数めちゃくちゃ伸びてないか⁉⁉⁉
な、なんで……⁉
魔王コスプレした人間がはっちゃけているだけだよ⁉
「ど、ど、どうして⁉」
動画のコメントには『魔王wwwww』『日本人じゃねーか!』『やめろよ古傷が痛むだろ!』とボクへの生温かいコメントもあれば『ガチ魔王???』『別次元が完全に繋がったんか?』とガチで信じているようなコメントもある。
いやいやいやガチなわけないだろ⁉
どーみても魔王コスプレした人間じゃないか!
「魔王さまの活動に支障があればと心苦しく……問題ございませんでしょうか?」
「ま、待って、待って! せ、説明して欲しいな……!」
「説明……と言いますと?」
「な、なんでこんなにバズってるの⁉」
「?」
甘城さんは瞳をパチクリさせたあと、お人形みたいにコテンと首を横にかたげた。
うっ……めっちゃくちゃ可愛い。
すごく可愛いが、今は見惚れている場合じゃない。
「さ、再生数が多すぎるよ。それに、ほ、本物の魔王があらわれたみたいなコメントがあるんだけど……?」
「それはそうでございましょう。魔王さまは闇魔術や影スキルを行使されていましたし」
え???
ボク、普段から当たり前のように使っていたけど????
「そんなに珍しいもんだっけ……?」
「適性があっても、使用者は精神が蝕まれると聞きます。
よほど根暗で影のうすい人間でないかぎり、使いこなすことは難しいでしょう。魔性への適性があれば別ですが」
よほど根暗で影のうすい人間だからだと思う……。
「で、でも! それだけで魔王なのはおかしいって!」
「昨晩わたしが探索していたダンジョンに
よほど根暗で寂しい性格でないかぎり、精神が蝕まれる恐ろしい霧です」
たまに湧く、ジメっとした霧のこと?
ボクには居心地よいんだけど?
よほど根暗で寂しい性格でないかぎりかあ……。
「まだあります」
「まだあるの⁉⁉⁉」
「わたしを襲ったモンスター
それをいとも簡単に撃破したのです。これだけでも目を引きましょう」
S3とは、モンスターの強さあらわす値だ。
各ステータスはF・E・D・C・B・A・Sランク表記で順繰りに評価があがっていく。
S1つあれば難敵とされる。
ステータスにSが3つあるモンスターということは、強豪冒険者パーティーでなければ討伐できないレベルだ。
そんなに強いモンスターだったのか……?
汎用スキルやステータス看破スキルにわき目もふらず、闇系スキルに全振りしていたしなあ……。
「さらには」
「さらには⁉⁉⁉」
勘弁してくれ!
ボクがいかにアホぽんちんか、わからされているみたいだ!
「あの郊外で発生するダンジョンは高難易度です。
次元境界も曖昧で……回復スキルもろくに効かない魔境でございます。
下手をすれば
愚か者でした……。
ずっとソロプレイで知りませんでした……。
ボクにとって狩りやすい秘密の場所だったんだけどなあ……。
「魔王さま」
「魔王じゃないです……鷗外みそらです……」
「……みそらさまを本当に魔王じゃないかと考えた人がいたため、動画がたいへんバズったのです。
おわかりいただけましたか?」
さらりと『みそらさま』呼びしてきたな。
露骨に反応してしまったけど、まだ、なんとか誤魔化せるとは思いたい……。
「甘城さんは」
「アルマと呼び捨ててくださいまし」
甘城さんはぐわっと近づいてくる。いつもどこか退屈そうだった彼女の瞳は、ものすっごくキラキラしていた。
みょ、妙な圧があって逆らえる気配が……。
「ア、アルマ……は、どうしてボクを魔王だと信じているわけ……?」
魔王コスプレしていない、冴えないボクを前にしても甘城さん……えーっと、アルマは魔王だと信じきっている様子。
彼女の純粋な瞳がボクを捉えてはなさない。
「わかるからです」
アルマはうっとりとした表情でボクの両手をにぎる。
や、柔らかくて温かい……。
女の子にこんなにも手をにぎられるなんて生まれて初めてだ。
動揺していたボクに、アルマは逃がさないとばかりに告げてくる。
「――わたしとみそらさま……魔王さまは、前世で恋仲だったのですよ」
はい????
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