第3話 地味男子、正体を勘付かれる
学園次元都市トゴサカ。
学園次元都市もその一つ。
ここは【ダンジョンと人類の共存】をテーマに、政府が作ったモデル都市だ。
若い世代がダンジョン化現象をどう対処するのか、どう付き合っていくのかを研究者がサンプリングしていて、巷で流行りのダンジョン配信も学園次元都市トゴサカから広がった経緯がある。
都市を区画で分けていて、発生するダンジョンも特色ごとに絞っていたりする。
それぞれで、どんな反応をするのか研究中とのこと。
そのためか一部の学校の生徒には、ある程度の権限を与えていたりした。
たとえばだけれど。
北地区の『聖ヴァレンシア学園』は規律正しい学生が多く、回復・守護スキル持ちが多い。
周辺で発生するダンジョンも天使系モンスターが湧きやすい。
ダンジョン関連の自治活動を担っている風紀委員的な学園だ。まあ風紀をやりすぎて、他の学校から煙たがられていたりする。
東地区の『黒森アカイック学校』は自由な生徒が多く、攻撃スキル持ちが多い。
周辺で発生するダンジョンは悪魔系モンスターが中心。
ダンジョン関連のイベント運営を担っていたりする。場を盛りあげるには盛りあげるのだが、それ以上に問題行動も多いので、他の学校からすれば頭痛の種でもある。
ちなみに聖ヴァレンシア学園と黒森アカイック学校は犬猿の仲だ。
あと大きな学園は、西地区の風魔学園か。
話題になることが少なくて、どういった学園なのかはよく知らない。
そしてボクの住んでいる場所は……南C地区だ。
特色という特色はなし。
ノーマルもいいところ。
普通の人をサンプリングにしているからだ。ダンジョン化現象の研究者居住区にもなっているためか、暮らしを充実するための施設は多い。
そんな平々凡々な地区で、ボクはマンションの自室でシーツに包まっていた。
「うう……学校に行きたくないよう……」
人前で魔王さまなりきりプレイ。
思い出すだけで顔から火が出そうだし、配信でどう噂されていたのかを考えるだけで胃が痛くなる。
やらなきゃいいって話だが、あのときはああするしかなかった。
学校に行く気力なんて全然なかった。
「みそら君ー。学校に行く時間よー? いい加減に起きなさーい」
扉の向こうから、ゆるふわーな声が聞こえてくる。
母さんだ。
母子家庭で育ったので心配かけたくないが、今日だけは勘弁してほしい。
「ごめん、母さん。今日はちょっと……」
「…………もー、お母さんからの大好き好き好きハグがないと起きれないのー?
みそら君もまだまだ甘えんぼうさんねー」
「起きます! はい! 起きた! 今すぐ行きます!」
母さんの見た目はかなり若く、ボクの姉だとよく勘違いされる。
そんな母からのダダ甘やかしは、なりきりとはいえ魔王のプライドが許さなかった。
――と、いうわけで日比野高校に登校した。
学校でのボクは相変わらず空気みたいなもので、まあ空気は存在するだけでありがたいので比較するのもおこがましい。ボクはボクという唯一無二の無価値な存在として、机にちょこんと座っていた。
「――だってさ~」
「――まじ? ありえねー」
「――っしょ!」
クラスメイトの雑談の切れ端が耳に届く。
ボクは、スマホを眺めながらぼんやりと休み時間をすごしていた。
スマホがない時代、ボクみたいな人間はどーやって一人だけの休み時間を過ごしていたんだろな……。
いじめられてないけれど、路傍の石扱いも結構こたえる。
「はあ……」
人相隠しに、伊達メガネをかけてきた自分の自意識過剰っぷりが恥ずかしい。
どうして当たり前のように伊達メガネを持っているか、だが。
中学生のころに、知的なメガネキャラに憧れて買っただけのこと。
誰にでもあることだと思うし、別に珍しいことではないはず。
まあ、念のため、伊達メガネはしばらくバイト先でもつけておこう。
身バレだけは絶対に避けたい。
「じー」
……身バレだけは絶対に避けたい。
「じーーーー」
………身バレだけは絶対に避けたいから。
「じーーーーーーーーーー」
めちゃくちゃ強い視線を感じる……。
離れた席にいる、
ここでボクが反応すれば、間違いなく昨日の話題になってしまう。
イヤだ。絶対に身バレしたくない。
絶対に無視!
「じーーーーーーーーーーーーー」
どんどんと、彼女からの視線の圧が強くなった。
さすがに周りのクラスメイトたちも、ボクと甘城さんの間にある妙な気配を感じとったようで、ザワザワと騒がしくなる。
相手はS級美少女。冒険者としても有名らしい。
たいしてボクは影のうっっすい生徒だ。誰もボクの好みや趣味なんて知らないだろう。ちなみに普段は魔王になりきってダンジョンで遊んでいます。
彼女に反応すべきか。
いや、しかし。
どうすればいいか迷っていたボクに、メッセージが届く。
『放課後、視聴覚室で待っています。甘城アルマ』
彼女から突然のメッセージと、どうしてボクのアドレスを知っているのかで、ボクの心臓は止まりかけた。
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