第33話 これは僕の勝手な推測だ

 眠りに落ちる前に、僕はパソコンを開き、インターネットに接続する。


 『カクヨム』という小説投稿サイトに寄稿した記事に目を通してみることに。


 先日投稿した『岡山のとある山にまつわる都市伝説について、情報がある方は教えてください』というエッセイのPVはかなり伸びており、多くの都市伝説の情報が寄せられていた。


 まったく。僕が頭を悩ませながら必死で推敲した小説のほうはなかなか読んでもらえないのにこういうのばかりが数字が伸びるというのもなかなかに悩ましいものではある。


 寄せられたコメントのいくつかは、とるに足らないようなコメントであったが、興味をそそるようなものもいくつかあった。それらをまとめると次のようになる。

 

・どうやらあの、河童伝説の神田池のほとりにある家、あそこに住む家族の名前は神田と書き、読み方は「カンダ」ではなく、「カミダ」と読むのだそうだ。


・神田家は代々あの金山を見守る巫女を世話する役割を与えられていて、人里離れたあの山奥で住んでいたそうだ。


・神田家は呪われた一族であり、若くして髪の毛が真っ白な子が時折生まれたという。

 

・山の上の巫女は、処女であり続けることが義務付けられており、そのため子孫はなく、新しい巫女は神田家のものがどこからか連れてくるのだという。

 

 ・江戸の末期、最後となったカナヤマの巫女は、左右にそれぞれ赤と黒の違う色の瞳を持った美しい巫女だったという。しかし、世話役の神田家の息子と恋仲になってしまい、ふたりは山のお堂に火をつけて心中してしまったという。これを最後にカナヤマの巫女、と神田家の家は途絶えたのだという。


 それともうひとつ、僕は一見別のものに思えるこの書き込みも、一連のエピソードではないかと考える。


 ・明治に入り、金山の北のはずれに非常に当たると噂のまじない師が現れた。そのまじない師は若くして白髪、左右に赤と黒の二種の瞳を持つ美しい女性だったという。



 これより先は、まったくもって僕の単なる考察に過ぎない。これらのうわさ話が、あくまですべて真実だと仮定し、そのうえでつなぎ合わせた、それはある種の創作とでも思ってくれていい。


 江戸の末期、この辺り一帯で大規模な飢饉があった。食べるものさえままならない人々は口減らしのためにカナヤマの山中に子を捨てた。


 あるいは、栄養不足などで遺伝子異常の子が生まれ、その子を不憫に思ったり、悪魔の所業だと恐れおののき子を捨てた。その中には幼くして白髪であったり、オッドアイであったり、時にはシャム双生児のような子もあったかもしれない。


 捨てられた多くの子たちはそのまま死んでしまったが、生まれながらにして白髪の遺伝子を持った子が神田と名乗り、山奥に居を構え、時折山に捨てられた子を拾ってきては家族として育てた。


 神田の家に住む者たちの多くは、遺伝子などに異常を持ち、呪われた子として山に捨てられた者たちだ。したがって、恋愛をして子を作ることを禁止されていた。そして、今後この町に自分たちのような呪われた子が生まれないようにと、山にお堂を作り、祈りを捧げる巫女を選出するようになったのだ。


 無論、彼らが子孫を残すことが全くなかったわけではないだろう。たとえ遺伝子に多少の違いこそあれど人に変わりはなく、恋もすれば愛も芽生える。そうでないと白髪の一族である神田もとっくに絶滅していたはずだ。


 しかし、末代の神田の少年はオッドアイの巫女と恋に落ち、それが許されない間と悲観しお堂に火をつけ心中をした。

 というのは建前だ。


 二人はお堂に火をつけて心中したことを装い、おそらくあの井戸の墓場から適当な死体を掘り起こし、家中のお堂に置いて自らの死を偽装した。


 恋に落ちた二人はあの井戸を抜けて山を下り、明治になって執り行われた氏姓制度で別の名前に改名し、世を忍んで二人幸せに暮らした。


 のちになって子宝に恵まれ、オッドアイと白髪の両方の遺伝子を受け継いだ子がまじない師として有名になった。


 もちろんこれは、とても都合のいい僕の妄想に過ぎない。僕がそうであってほしいと願い、見たかった世界の空想である。

 まったく。僕のような現実主義者がこんな都合のいい都市伝説のような物語を考えてしまう


なんて、きっと誰かの影響だろう。


 だが、これはこれで悪くない。いつか僕が、立派な小説家にでもなったときに、こんな話を


モチーフに何か書いてみるのもいいのではないかと考えてみたりもする。

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