第23話 放課後のメリーさんが、リョウメンスクナを連れてきた
僕は文芸部の部室に戻り、一人きりになった。天井裏からは軽音楽部の演奏は聞こえなかった。さっきの事件があり、井上はすっかり委縮してしまったし、河本だって平常を装っては見せていたものの心中穏やかではなかったはずだ。
他の二人にしても、それなりに思うこともあり、何事もなく練習をするという雰囲気にもならなかったのだろう。
せっかくの静かな放課後、本当なら読書に打ち込みたいところではあるが、やはり僕としてもなかなか読書をするという気持ちにはなれなかった。オセロ盤を机に引っ張り出し、湯沸かしポットにはコーヒー二杯分の水を沸かした。
すぐに、上田がやってくるものだろうと考えていたのだが、いつまでたっても上田はやってこない。
仕方なく、ダラダラとスマホをいじりながら時間をつぶすことにした。
僕は、ひそかに『カクヨム』というネットの小説投稿サイトを利用している。自分のいつかは小説家になりたいと考えていて、こっそりと書いてみた小説をサイトにあげてみたりもしている。
しかし、なかなかどうして、そう簡単に僕の書いた小説なんて誰も読んではくれないものだ。
なにせ、数えきれないほどの数の小説が日々サイト上に投稿されている。そこで、全く無名の新人である僕の小説なんかが誰かの目に留まるということもなかなかに考えにくい事象で、日々そこに頭を悩ませている。
そういえばどこかで、エッセイなんかのタグだとあまり競合がないから比較的読んでもらいやすくて、そこから小説のほうへ読者を引っ張るなんて方法があると聞いた。
物は試しにやってみようと、ちょとした記事を書いてみることにした。
『岡山のとある山にまつわる都市伝説について、情報がある方は教えてください』
というタイトルで記事を書いてみた。
自分の通う学校名は伏せ、その学校にあるという学園七不思議の一部情報と、その学校のある金山という小さな山に関する巫女のの伝説。上田とななせから聞いた話を簡単にまとめ、その真相を探るために何か情報があれば教えてほしいという記事だ。
我ながらに、うまく書けたと思う。
満足げに二杯目のコーヒーをすすりながら、適当に暇をつぶしていると、地元の駅前にあるストリートピアノを弾く天才美少女の動画を見つけた。小柄で、黒いワンピースを着た子。黒髪ロングの美少女が男さながらに激しくピアノジャズを弾き語る姿に多くのギャラリーが集まっている。その再生回数に驚き隠せない。
僕が投稿した小説の閲覧数の、数万倍の再生回数。こんな情報、絶対ななせには教えてやるまいと心に誓った。
そして、ちょうどそんなタイミングだった。
僕のスマホに突然の着信。
まったく。彼女はどうしていちいち通話をかけてくるというのだろうか。
画面に表示された『上田麻里』という名を確認し、舌打ちしながら通話ボタンを押す。
『あ、もしもし! わたし、麻里。今、旧校舎の裏山にいるの。
大変です! ヤバいもの見つけてしまいました!
死体、本物の死体です。
しかも、普通じゃないんです。
これ、リョウメンスクナですよ!
両面宿儺。わかります? 特級呪物ですよ!』
なんで、こんなことになってしまったのだろうか。
僕は、単に放課後、静かな場所で静かに読書をしていたかっただけなのに、どうしてこうも次から次へと訳の分からないことに巻き込まれなくてはならないのだろうか。
リョウメンスクナ(両面宿儺)とは、仁徳天皇の時代に飛騨に現れたとされる異形の鬼神だ。日本書紀や、各地民間伝承などでも多く語られるその姿はひとつの胴体に四本の腕、四本の脚。そしてひとつの頭部に顔が両面に二つついていると言われている。一つの体に手足合計八本という姿は古事記にも語られる『土蜘蛛』とも酷似しており、これらを同一視することも少なくない。
世界的に大ヒットしたとある漫画でも特級呪物として最悪の存在として描かれている。
それには、ちょっとした都市伝説が絡んでいると考えていい。
岩手県のとある寺院の解体作業中、役2メートルほどの木箱が発見され、その木箱について住職に訪ねると、「絶対に開けてはならない」と言われたらしいのだが、その場に居合わせた外国人労働者がその木箱を開けてしまい、中にはシャム双生児のような、一つの胴体に二つの頭、四本の腕に四本の脚の人間のミイラが入っていたという。住職は「開けてしまった以上、もうどうにもならない」と言ったそうだ。
当該者である外国労働者は、お祓いを受けたにもかかわらず帰らぬ人となってしまい、その関係者は次々と不幸に見舞われたという。
このミイラは大正時代、物部天獄と呼ばれるカルト教団の教祖によって生み出された国家転覆をはかる呪物であるらしい。
その後そのミイラは幾度となくお祓いを受けながら、極秘裏にいろんな寺社仏閣を転々としながら安置されたが、日本人の誰もが知るような大災害が起きた時、おおよそその場所の近くにこのミイラが安置されていたと言われている。
しかしまあ、要するにこのリョウメンスクナという怪物。僕はシャム双生児(結合体双生児)だと考えている。
シャム双生児とは、本来一卵性双生児として生まれてくる子供が、細胞分裂の際何らかの原因で細胞分裂がうまくいかず、くっついたまま別個体として生まれてくることを言う。
原因をはっきりと断定することはむつかしいが、民族的な偏りがあったり、枯葉剤の影響ではないかと考えられたり、あるいは母体の栄養失調なんてこともあるのかもしれない。
僕が先日読んだ本の中では、近親間の性交によって発生した遺伝子障害が原因となっていた。
現代のように科学が発達していない昔の場合だと、それを悪魔の仕業だとか、呪いだとか言ってしまったことだろう。
その子供たちは生かされ大人になることを許されず、祈祷され、寺社仏閣に安置されたり、封印され、地中深く埋められたりもしたかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます