第10話 リベンジクイズの正解
「なんというか、色味の少ないさみしいアイスですね」
「シンプルで美しいと言ってくれ」
「まあ、どっちでもいいですけれど……いいんですよね? 本当に当てちゃいますよ」
「ああ、当たるものならな。実はこういうシンプルなものほど情報が少なすぎてわからないものだ」
「いや、そうでもないですよ。まず、上の段のライトグリーンのアイス。選択肢としてはシャインマスカットかホワイトチョコミントかというところですけど、さっきも高野君が言っていた通り、わたしと同じコーヒーをブラックで飲んでいた高野君ならやっぱりホワイトチョコミントですよね。ブラックコーヒーが好きな人はミント味が好きな人も多い、これは僕と同じだ。みたいなこと言っていましたよね。
問題はこっちのほうです。このシンプルで黒いアイスに該当しそうな候補は三つ。ショコラショコラか、チョコレートモンブランか、ビターコーヒーです。
でも、こっちも考えるほどでもないですよね。ショコラショコラもチョコレートモンブランも39アイスの中ではトップクラスの激甘フレーバーです。甘いものが苦手な高野君が選ぶはずがないです。
答えはホワイトチョコミントと、ビターコーヒーです」
「ファイナルアンサー?」
「それ、言わなきゃダメですか? はっきり言って寒いのでスルーしたいんですけど」
「寒いのは上田がアイスを四玉も食べているからだよ」
「ああ、それも寒いですね。そんなことはいいからさっさと負けを認めてください」
「そうか……じゃあ、端的に答えを言おう。両方間違いだ。答えは上のがシャインマスカットで、下のがチョコレートモンブランだ」
「う、嘘です。本当は当たっているのに悔しいから嘘を言ってるんでしょ」
「いや、嘘じゃないぞ。何なら一口食べてみるがいい」
上田はそれぞれを一口ずつスプーンですくって口に運ぶ。
「う、うう。まさか、高野君が本当にこんな甘々なチョイスをするとは、考えていませんでした……」
「僕の勝ちだね。いやまあ、確かに上田の考察は悪くなかったとは思うよ。だけど、上田は大きな勘違いをしている」
「勘違い?」
僕は、手に持ったアイスをななせのほうに差し出す。ななせはそれを僕の手から取り、代わりに持っていた自分のアイスを僕に渡す。ななせは美味しそうに、シャインマスカットのアイスをスプーンですくって口へと運ぶ。
「上田さんはさ、まるでななせが僕を普通にアイスクリームデートにでも誘っているのだと勘違いしているみたいだけれど、ふつうに考えてななせのような美少女が、僕をデートに誘うなんて考えられないよね」
「えっと、うん、まあ、それはそうかもしれないけれど……自分で言っていてつらくはない?」
「大丈夫、これでも身の程はわきまえているつもりだ。
つまりさ、ななせが僕をアイスクリームデートに誘うのにはちゃんと訳がある。ななせはさ、こうみえてとんでもなく食いしん坊で、食べたいアイスを二種類に絞るなんてできないんだよ。だから、こうして四種類のアイスのフレーバーを全部自分一人で選んでいるんだよ。
さっき、ななせが上田さんがひとりで二本のアイスを食べたと言った時、『ひとりで二本頼んでいいなんて知らなかった』と言った時は少し焦ったけれどね、あの時のセリフを上田さんが注意深く聞いていたなら、さっきから僕が手に持っているアイスをほとんど食べていなかったということに気づいていれば、真相に気づいていたかもしれないけれどね」
「そ、そうだった……んですね。わたしてっきり二人がもっとスイートな関係だと思っていましたが……」
「僕はななせにいいように利用されているだけだよ。ちなみに、僕が普通に自分用を選ぶなら、だいたいチョコミントとラムレーズンにするよ」
「でも、それならどうして伏見さんは同じ軽音楽部の人に頼まないのですか?」
「え、だってさ、頼んで断られたらヤじゃん。その点、マコトは頼めば断れないタイプだから頼みやすいのよね」
「うーん、でも、伏見さんが頼めば軽音部の中で断らない人はいないと思うけれどね。はっきり言って端から見れば、軽音部のみんなは伏見さんに首ったけのように見えるけれど」
「まあ、確かにそれはそうかもしれないわね。ほら、アタシってすごくカワイイじゃん?」
「うん、まあ、そうですね」
「あ、マコトもよかったらそのアイス、もっと食べてもいいのよ」
「いや、だから言ってるんだけど、僕は甘いものがあまり好きじゃないんだよ」
「え、でもそれじゃあ無理やりつき合わせちゃってるアタシとしてもちょっと罪悪感があるのよね。だからさ、お願い。食べて」
ななせはよりによって手に持ったスプーンでチョコレートモンブランをすくい、僕の口元へと差し出した。
断るわけにもいかないようだ。
「どう、おいしい?」
「ああ、すごく、甘いな……」
「うん、それならよかった」
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