無気力な回答から窺う人間性
Q.これから幾つか質問をさせていただきます。可能な限りお答えください。
A.はい、よろしくお願いします。
Q.よろしくお願いします。……それでは、お名前と年齢、健康状態をお答えください。
A.大路弘明です。三十八です。健康な方だと思います。
Q.ありがとうございます。それでは、学生時代の大路さんについて教えてください。
A.もう二十年も前のことですけど、今と変わらず可もなく、不可もなくと言った感じでした。
Q.具体的に、成績などは?
A.お恥ずかしい話ですが、普通より少し出来ない方、でしたね。大学もFランなんて呼ばれるところしか行けませんでしたし。
Q.そうでしたか。部活は何か所属されていましたか?
A.いいえ、帰宅部でした。イケイケのやつらは当時、バスケットボール人気が高かったので、バスケとかやってましたね。
Q.目立ちたいな、とかありましたか?
A.いやぁ、静かにいられれば満足でした。イジメもなく、平和ならそれで。
Q.では、思うような学生生活を?
A.さぁー……どうなんでしょうね。正直、自分でも何かに満足していた覚えがなくて。ただずっと、コツコツ生きてきただけ、と言いますか。
Q.なるほど。では、質問を変えますね。……学生時代や今、お付き合いをされたことは?
A.学生の時は告白することも、されることもありませんでした。今は、その……歳下の彼女が、……はい。
Q.そうでしたか。お付き合いをされてどのくらいなんですか?
A.あ、あー、結構聞くんですね。えーっと、……半年、くらいでしょうか。
Q.何か、お困りのことでも?
A.あ、いや……その、彼女、すごくモテる人で。自分なんかとどうして一緒にいてくれるんだろうなぁ、なんて考えちゃうんですよね。
Q.素敵な方なんですね。
A.それは、それはもう、私なんかには勿体無いくらいに……。
Q.出会いのきっかけは?
A.それが、初めて行った美容室でシャンプーをしてくれたのが彼女で……とっても可愛いなぁ、と思っていたら番号を渡されちゃって。
Q.逆ナンですね?すごいじゃありませんか。
A.いやー、でも、怪しくないですか?実は美人局のターゲットにされたんじゃないか、とか。色々考えてしまったりして。初めてのことでしたし。
Q.なるほど。では、あまり幸せではない?
A.あ、いや……そんなことはなくて……我儘言っちゃいけないのは分かってるんですけど、どうしても、こ、こんなんなので、卑屈になっちゃうんですよね。
Q.難しいですね。……少し、また質問を変えますね。学生時代からの方も含め、ご友人は多いですか?
A.友人、いやー……多くはないと思います。連絡を定期的に取り合うようなやつもいませんし……最近は年賀状も送りませんし、何をしているかも分からないやつばかりですね。
Q.なるほど。少しまた恋愛の話なのですが、学生時代に好きな人はいましたか?
A.ええ、まぁ。……一応。
Q.どんな方でしたか?
A.物静かな人でした。成績が良くて、目立たないけれど人に媚びる感じもなくて、かっこいいなって思って見ていました。
Q.なぜ、告白をされなかったんですか?
A.迷惑かなぁ、と思いまして。
Q.それは、なぜ?
A.いやぁ、なんと言いましょうね。ありません?あーでも、先生方ってモテるから分かりませんよね。
Q.そんなことはありませんが……。えっと、でも、もし過去に戻れるならいつに戻りたいですか?
A.あー、高校生でしょうか。もっといい大学に行けるように、頑張ればよかったなぁ、と。
Q.大学時代に戻ったらやりたいことはなんですか?
A.なんでしょうねぇ……ああ、合コンとか、行ってみたいですね。
Q.もし、実現したら、実行できそうですか?
A.えぇー、どうでしょう。がんばります。
Q.……質問は以上です。ありがとうございました。
A.あ、はい。ありがとうございました。
「ちょ、俺ハズレクジだよね、コレ」
「ヤバいの引いたな」
「先輩ご愁傷でーす」
「いや、なにあの人。そりゃ友達いないよ」
「“高校”って言わなきゃないところ“大学”って聞いちゃってましたもんね」
「マジ?だってイライラしない?ああいう人」
「言うなって、そういうこと」
「でもいますよね、ああいう人」
「いる。マジで無理」
「意志がないってつーか、周りに合わせて生きてきたんだろうな」
「俺マジで、無理」
「いや、友達になる訳じゃないんですから。もう終わったから大丈夫ですよ」
「あー……あ。あの人で最後か」
「そうですよ。早く部屋出ましょ」
「ちょ、コーヒー奢って」
「仕方ねぇな」
「私もお願いしまーす」
「自分で買いなさい」
「俺買ってやるよ」
「やったー!」
「お前も自分で買えよ」
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