第6話 動き出す兄弟

「じゃあ、祖母ちゃん。アイツの事は俺に任せてよ……どこまで出来るか、わかんねぇけど」


 覚悟を決めたように、雄飛が告げると舞華が悲しそうな表情で頷く。そして、雄飛をまっすぐに見つめ、告げた。


「お願いね……」


 おそらく、仁翔の事だけではないのだろう。英雄の事も含んでいるのだと察した雄飛は、舞華と握手をかわして家を後にした。


(正直、自信はない。それでも……やるしかねぇんだ)


 ****


 雄飛は悩んだ末、あの日から立ち入り禁止となっているショッピングモールへ足を向けた。

 案の定、警察官がいて中に入る事は出来なかった。

 遠くから見つめつつ、思考を巡らせる。


(アイツは、何故このモールを襲ったんだ?)


 そもそもの問題に行き当たった雄飛は、どう動くべきか? 悩みながら一旦その場を離れる。


(慎重に動かねぇと……)


 仁翔は異様な程頭の回転が早い。正直言って、頭脳戦で勝てる相手とは思えない。

 だが……それでも。


「諦めるわけには……いかねぇよ」


 歩きながら考えをまとめていると、聞き覚えのある声が耳に入って来た。


「あの、この間ぶり……ね?」


 そこにいたのは、美夢だった。彼女は最初に出会った時より、元気そうだった。


「よぉ。お前は、何してるんだ?」


「貴方を、待っていたの」


「俺を……?」


 美夢は不思議な少女だ。どこか儚げであり、でも現実に存在している。

 妙な感覚、印象を与えるのだ。

 彼女は微笑むと、雄飛に向かって再度声をかけた。


「ねぇ、知りたい?」


「何をだ?」


「貴方に力を与えた、その存在の正体……をね?」


 その言葉は、雄飛に衝撃を与えるのに充分過ぎた――。


 ****


 その頃。

 日本中に宣戦布告した……仁翔は隠れ家にて、静かに佇んでいた。

 目をつむり、内にいる英雄と対話する。


(英雄、これより正義を為します。その為に悪になる……それを見ていてほしいのです)


 英雄の声が仁翔の脳内に響く。


 ――その覚悟こそ、まさに私の理想だ! 良いぞ! 為せ! 正義を!


「勿論です。その為に、生まれて来たのですから……」


 仁翔の思考は、完全に英雄の妄執に染まっていた。

 天才ともてはやされ、母から肯定され続け……それらが、結果として英雄の妄執と融和性を高めてしまったのだ。

 だが、その事に気づく者はいない。

 誰も――。


「気になるのは、あの氷の使い手だ。何者なんだ?」


 まだ彼は知らない。

 これから戦う相手が、自分が長年見下して来た実弟である事に。

 そして――正義を問う死闘を行うことになる事も。

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