第3話 銀雪氷雨

(マジかよ……)


 雄飛達の行く手を青い炎が阻む。その炎の燃え方と色に違和感を覚えつつ、脱出経路を模索する。

 だが……まるで逃がさないと言わんばかりに、青い火の手が迫って来る。


 (どうしろってんだ……? いや、そもそもこの火の感じ……おかしくねぇか?)


 炎の色もそうだが、動きがおかしい。意思を持っているかのように感じるのだ。


(いや、そんな疑問はどうでもいい! 今は……!)


「ねぇ……貴方は怖くないの?」


 どんどん顔色が悪くなっている少女が、不思議そうに雄飛に向かって尋ねて来た。自分を見上げる少女の瞳が不安そうに揺れている。


「死ぬのは怖ぇよ? だけど……それ以上にアンタを守れないのが怖いな」


「どうして……そこまで?」


「うーん……なんで、だろうな……兄貴が苛烈すぎるくらい正義感があるヤツでさ? 負けたくねぇのかも、な」


 素直な気持ちを告げる。雄飛にとって兄、仁翔は越えられない壁だ。異次元の存在にすら思えるくらいに。だからこそ……自分の手が届く範囲くらいは守りたいと思う。例え、自分の命が危うかったとしても。


「やさしい、のね……」


 どんどん声がか細くなる少女を守りたいと雄飛は、必死に何か手はないかと周囲を見渡すが、青い炎が迫って来ていることしかわからない。


(くそ……俺には何も……守れないのか!?)


 その時だった……目の前に大きな体格の全身を白い衣を纏ったが現れた。直感的に、人間ではないと理解した雄飛は距離を取ろうとする。

 だが、その存在は脳内に直接声を届けて来た。


【問おう。狂気足る正義を止めたいか?】


(狂気? 意味はわからないが……俺は!)


「俺は守りたい! この子を!」


【よかろう。力を与えようぞ……】


 突然近づいたかと思ったら、雄飛の顔に手を掲げた。その瞬間、雄飛の身体が淡く光る。そして……感じた。何かが目覚めるのを。気づけば謎の存在はいなくなっており、残された雄飛と少女は顔を見合わせ……覚悟を決めたように、雄飛が口を開いた。


昇華顕現しょうかけんげん……能力発動……銀雪氷雨ぎんせつひさめ!」


 雄飛の姿が変わる。全身が銀色に輝く青いラインが入った鎧と仮面を纏った姿へ。

 少女は気を失ったのか、目を閉じている。

 その申し訳なさを感じながら、変身した雄飛は技を発動させた。


濡ツ氷ノ塊そぼつひのかい!」


 少女を抱えながら、右手をかざして氷を青い炎に向けて放つ。凍る炎を確認すると、脱出するための道を開くため少女への負担を意識しつつ移動していく。

 どうにか脱出できた先は、スタッフ用の出入り口だった。人気のない細い道に出た雄飛は、変身を解くと地面に少女を置いて自分を膝を着く。

 気付けば目を覚ましていたらしい少女が、小さく声をかけてきた。


「助けてくれて、ありがとう……私は美夢みむ。貴方は?」


「俺は、雄飛」


 笑い合う二人が、救急隊に救助されたのは三分後だった――。

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