第三部 蒼き炎帝VS銀雪氷雨

第1話 妄執を受け継ぎし者と悲しみを受け継ぎし者

 時は過ぎて、現代。

 バブルが崩壊し、混迷の時代。

 その時代に生まれた彼らは、それぞれに想いを受け継いだ。

 ――その想いの行きつく果ては……。


 ****

 

『次のニュースです』


 朝のニュースを流し見しながら、朝食に用意したポテトサラダのサンドウィッチを口に運ぶ。今日は設立記念日で通っている高校が休日なため、平日なのにのんびり出来ている。

 ふと、母親から連絡の通知が来て覗いてみれば、いつも通り兄についての事だった。

 兄は天才ともてはやされる程の頭脳を持ち、両親……特に母にとって自慢の息子なのだ。その話がしたくて仕方なくて、連絡を寄こす。

 正直、良い想いはしない。

 だが、それでも律儀に相手をしてしまうのが自分の性分なのだと諦めている。


「ん?」


 また通知が来た。今度はなんだと思いながら開けば、唯一兄弟を公平に見て自分に対しても優しく接してくれる祖母、舞華からだった。


雄飛ゆうひ、今日はより暑いそうです。熱中症に気を付けて下さいね』


 短いながらも思いやりを感じる文面に、雄飛は温かい気持ちになる。祖母はもう良い歳であり、不慣れなケータイで送って来てくれている。

 その事実が嬉しかった。


(兄さんは……最近どうしているんだろう? 母さんのは自慢話ばかりだし……見えてこないんだよな、兄さんの生活が)


 あれは兄が十歳くらいの頃だったか。夜中に突然うなされはじめ、一時期不眠の状態になっていた。家族で心配したものだが、一ヶ月後にはそれも無くなった。

 ただ……あれ以来少し人が変わった気がするのは、気のせいなのだろうかとふと考えてしまう。

 兄、仁翔まさとの頭脳はとても優秀だし、人当たりも良く……正義感にも溢れている。

 そんな兄を尊敬しているが、同時に違和感も覚えていた。

 ――兄の正義は時々苛烈ではないかと。

 実際、行き過ぎた正義感により仁翔は何回か警察のお世話になっている。その度に、反省はおろか警察官に食ってかかり……余計にこじれていたが。

 父は仁翔のそう言った苛烈さを注意していたが、母は庇ってばかりだったのも記憶に残っている。

 そして……そのやり取りを知るたびに悲しそうにする舞華の顔も。


『僕はただ、正義を……為すべき事をしているだけだ!』


 いつだったか、仁翔が言っていた言葉が妙に気にかかっている。それを聞いた時の祖母舞華の驚いたような表情も含めて。

 もっとも……彼、四桜堂しおうどう雄飛が長年感じていた疑問の答えが出るまで、あと数日なのだが――。

 ここから運命の歯車が回り出す事を、今の彼はまだ知らない。

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