第5話 焦がれる想いと妄執と

 あの再会から一週間。

 舞華の日常に花が咲いたかのように、日々が楽しくなっていた。

 彼、正継と過ごすようになってきたからだ。

 正継は、とても律儀で穏やかな性格の青年であり……そして優しい。

 両親も勿論優しいが、それとは違う優しさに触れている感覚がしていた。

 

 だからこそ――英雄のがより辛く苦しいものへと感じられるようになっていた。


 今日も、正継と門限までの間公園で他愛もない会話をし、帰路に着く。母からは最近楽しそうだと言われ、頬を真っ赤に染める毎日だ。

 だからこそ、夢に出てくる英雄が……邪魔に感じるようになっていた。


(どうしてお爺様は……? 私の……幸せを奪わないで……!)


 夢を見る度に、その想いは募って行く。正継との楽しい時間と、眠るたびに襲う英雄の妄執……気が狂いそうにすらなり始めていた。

 精神も限界に近づいて来たある日、それは起こった。


「今夜は大雨らしいわ」


 母の言葉に、舞華は嫌な予感を覚えた。何故だか胸騒ぎがする。

 心なしか、英雄の妄執の念が囁いているかのような錯覚すら感じられた。


(何か……嫌な感覚……何かしら?)


 違和感を覚えつつも、舞華は外へ出かけて行く。今日は正継との初デートなのだ。日程をずらす事も考えたのだが……はやる気持ちを抑えきれなかったのだ。

 短時間にしようという事で、両親にも認められての外出だ。

 勿論、正継もそれを了承しての事だ。

 だからこそ……嫌な予感など、気のせいであってほしかった。


 ****


 「舞華さん……その……よく似合っているね」


「正継さんこそ、素敵です」


 舞華はフリルの白いワイシャツに水色のロングスカートに少しだけ高めの紺色のヒール、正継は白いワイシャツにループタイを着けた黒のサスペンダーとスラックスに革靴だ。

 二人共今日のためにオシャレをしてきたのだ。

 互いに褒め合うと、並んで歩き出す。今いるのは、いつもの公園ではなく少しだけ遠い桜並木のある、川沿いの広く大きな歩道だ。

 手を繋ぐにはまだ早いと、奥手な二人はただ並ぶだけ。


(あぁ、とても……とても幸せだわ)


 舞華がそう実感していた時だった。予報より早く、曇り空がやって来て一気に土砂降りとなる。珍しい現象に、思わず二人は顔を見合わせ急いで近くの桜の木の下へ行く。

 どんどん雨が強くなってきている。このままでは川が氾濫しそうだと思った瞬間だった。激流の中に、子供の姿が見えた。このまま放置すれば、確実におぼれ死ぬだろう。

 その時、正継が川に向かって走って行くのが見えた。


「正継さん! ダメよ! 貴方まで、死んでしまうわ!」


 叫ぶ声虚しく、彼は飛び込んで行く。それを見て……舞華は覚悟を決めた。


 「昇華顕現。空間固定、無畏ノ夢。我が能力、月時雨の発動確認――水流零!」

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