第4話 運命の再会
(あの人……綺麗な瞳をなされていたわね)
その日の夜。手当をした男子学生の事をふと思い出した舞華は、少し頬を赤らめる。
彼女は今、自室の布団の中にいる。
本当は眠りたくないのだが、両親を心配させたくなくて中にいる。自分の体温で布団が暖かいが、それがより一層舞華には恐ろしかった。
眠気を誘ってくるこの温もりが、悪夢と繋がり不安を煽る。
(寝たくない……でも、眠らないと……)
力に目覚めてからというもの、幾度となく見る英雄の執念。彼の指す正義がわからないからこその悪夢に、舞華の精神は限界に来ていた。
本来安息であるはずの眠りが怖い。
この苦痛に耐えられなくなってきている自分に、余計に胸が苦しくなる。
(でも……私は知らなきゃいけないのかも。お爺様が何を望んでいるのかを……)
だが、肝心の方法がわからない。それがまた、舞華の精神をジワジワと追い詰めている。
(今日はもう……。せめて少しでも寝られたらいいくらいに思いましょう)
眠気が少しづつやって来ているのを実感し、舞華は深く息を吐いて目を瞑った。
****
――流れてくる。
――奔流の如く鮮明なる映像として。
――英雄の、苛烈すぎるほどの想いが。
(お爺様……お爺様! 私に何をさせたいのですか? 何を望んでいらっしゃるのですか? もう……お赦し下さい……もうこれ以上は……!!)
****
翌朝。
舞華は嫌な慣れ方をしてしまった寝不足を体感しながら、カーテンから差し込む朝日で目を覚ました。
(今日もきっと、うなされていたのでしょうね……。ごめんなさい)
既に起きているであろう、両親に対して心の中で謝罪しながら舞華は布団からゆっくりと這い出て起き上がる。
(今日は……いえ、今日またあの人に会えたらなんて……)
ふと思い出す、あの桜色の瞳の彼。名前も知らぬ彼に何故か惹かれた自分に対して驚きながら、今日も舞華は化粧をし女学校へと向かうため、家の玄関を開けて外へ出た。
両親の心配そうな顔が見えたが、何も言えなかった。
****
ゆっくりといつものように通学路を歩いていると、突然声をかけられた。
「あの……昨日のお礼を、その、伝えにきたのだけれど……いいだろうか?」
襟詰めの黒い制服に身を包んだ桜色の瞳をした青年が舞華の通学路上、他の通行人の邪魔にならないよう配慮しながら立っていた。
「貴方は昨日の……」
「そう、君に手当をしてもらったものだ。どうしても、感謝を伝えたくてね」
「よくここを通るとおわかりになりましたね……?」
正直に言えば再会出来て嬉しいのだが、青年がどうやって自分について知ったのか? その疑問が頭を過って離れず、つい訝しげに尋ねてしまう。
だが、青年は嫌な顔どころか申し訳なさそうに口を開いた。
「その、俺の友人の妹が君の事を知っていてね? 恥ずかしながら教えてもらったんだ。本当にありがとう。あ、名前を名乗っていなかったね……失礼。俺は、
頬を赤らめながら名乗る正継に、舞華は好感が更に上がりつられて自分の顔を赤いと気づいて、互いに恥ずかしくなるのだった――。
これが、彼との再会であり……更なる英雄の妄執による悲劇が待っているとはこの時の舞華は思ってもいなかった。
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