第3話 執念と出会い
――業火の中。
――見えるは人の形をしたなにか。
――それとの出会いが私を変えたのだ……。
――為せ! 正義を! 悪を倒し、正義を示せ!
――それがお前の、為すべき事だ!
「舞華? 舞華!」
聞きなれた声で目を覚ました舞華は、心配そうな両親の顔を確認すると無理矢理微笑んだ。
「ごめんなさい、お父さん、お母さん。ちょっと……うなされてしまったみたいです」
なんとか誤魔化そうとする彼女を母が抱きしめると、同時に父が優しく舞華の背中に手を置いた。
「舞華、ここ数年……何にうなされているんだ? 覚えてないとはいえ、心当たりくらいはあるんじゃないか?」
父の声色は優しい。咎めているわけではないとわかっていても……舞華は話せなかった。
「ごめんなさい。本当に、わからないんです……」
嘘を吐く事に罪悪感を抱きながら、気づけば舞華は涙を流していた。
その涙の意味を誰も理解できないまま、夜が明けた。
****
翌日。
起床した舞華は、静かに息を吐くと化粧台の前まで向かい、顔を確認する。
昨晩の涙の痕が残っており、腫れぼったくなっていた。
(これは……お化粧で誤魔化せそうにないわね……)
苦笑しながらなんとか可能な限りの化粧を施すと、身支度を整え家を出た。見送る母の心配そうな表情に申し訳なさを感じながらも、誤魔化す事しか出来なかった。
(ねぇお爺様……私に、何を為せとおっしゃっているの?)
実のところ、舞華には祖父英雄の執念とも言える熱はわかっても……その意図が全く理解出来ないでいるのだ。
何故、祖父はこんなにも
それがわからないからの――苦悩でもある。
(あら?)
いつも通り、学校へと向かう道中。
舞華の通学路には、途中でバスに乗るための停留所があり待合用の木製の椅子が置かれている。
普段なら、気にも留めないのだが……。
(珍しいわね? こんなに人だかりがあるなんて……。嫌な予感がするわ)
近寄れば、どうやら中年の男性二人が言い争いをしており、それを青年二人が間に入って止めようとしているらしかった。
そこに他の男性達も参戦し、それがより一層混迷を極めていた。
騒ぎを聞きつけた警官達がようやく到着した頃には、傷を負った男性達で溢れていた。
途中から見守っていた舞華と、その前から見ていた女性達で手当てを始めた頃には、原因となった中年男性二人は警察官達に尋問されていた。
舞華は最初に間へ入っていた青年達二人の内の一人の手当を行う。幸いにも、そこまで酷い怪我ではなさそうだった。
「お加減はいかがですか? 他に痛むところとかございませんか?」
「ありがとう。軽傷ですんでいるから、そこまで悲しそうにしないで頂きたい。お嬢さん」
丁寧な対応の青年の瞳は桜色で美しかった――。
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