第2話 優しき心と正義への妄執の念を抱えながら

 翌日。

 学校へと向かう舞華に、同級生が声をかけてきた。


「おはようございます、桜川さん」


「おはようございます」


 簡単な挨拶をかわすと、二人で学校までの道を歩く。彼女の名を、友倉結子ともくらゆいこ

 舞華にとって、数少ない友人と呼べる希少な人物だ。

 何かと堅苦しく息苦しさを感じている舞華にとって、友人になってくれるようなのは結子くらいのものだったのだ。


(それに……や力の事も、あるものね……)


「桜川さん? どうしたの? お顔がすぐれないわよ?」


「大丈夫よ、友倉さん。今日は夢見が悪かったの」


 夢見という言葉に、結子の表情が暗くなる。それを見て、舞華が焦ったような口ぶりで話を変える。


「そうだわ、友倉さん! 今日の放課後よければ公園に行かない?」


「いいけど、なぜ?」


「綺麗でかわいいお花をみつけたの! 友倉さん、絶対好きだと思うわ!」


「そ、そう? なら、いいかな? 遅くなければ良いのだしね!」


 そうして、二人で放課後の約束をしているとあっという間に学校へ着くのだった。


 ****


 それは、授業中に起こった。

 眼光鋭い五十代くらいの女教師が、国語の授業をしている時。

 突然の轟音が鳴り響いた。

 揺れる教室内。パニックになる生徒達の中、舞華だけが冷静だった。

 彼女は静かに、時間を――止めた。


 誰も動かなくなったのを確認してから、彼女は変身すると音のした方へ飛び出して行った。

 速く、速く駆けると音の元へとたどり着いた。


「これは、土砂崩れね」


 原因はわからないが、突然地面が滑ったのだろう。今にも住宅街へなだれ込みそうなところで、止まっている。


「やりましょう。水流壱華すいりゅういちか!」


 両腕に水を纏うと、舞華は土砂の流れを変える。住宅街から、誰もいない……破棄された旧村の方へと。

 そうして、流れを変えた上で本当に誰もいないか確認するため、旧村へと向かう。


「うん、誰もいなさそう」


 人の気配が完全にないことを確認してから、舞華は教室へ急いで戻り、変身を解いてから時間を動かし始めた。


 轟音こそすれど、先程とは違う響き方に首を傾げる者が何名かいたが、それよりもと女教師の指示の元避難する。

 この日の放課後の約束は無しとなり、家に帰宅すればニュースが新聞に載っていた。


『土砂崩れ。しかし、奇跡か? 軌道がそれて無人の村へ。死傷者無し!』


 その見出しに顔を隠して微笑んだ時だった。から声が響く。


『よくやったぞ、我が力の継承者よ。もっとだ! もっと! 正義を為すのだ! 証明を! 真なる正義の証明を!』


 その声――英雄ひでおの残留した想いに頭を抱えながらも、舞華は気丈に振舞う。


「お母さん、ただいま帰りました!」


 まるで何事もなかったかのような彼女の悩み。亡き祖父の悲痛なる念の声。

 それに苦しみながら、彼女は日々を過ごしていく。

 ――ある夏の日。舞華、十七歳の頃……。

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