第7話 苛烈ナル生ノ果テ

 祝言を上げてから、英雄ひでおの正義を為す活動は益々苛烈に、そして派手になって行った。

 ……やり過ぎと揶揄されるほどに。

 英雄えいゆうというには、彼のやり方は苛烈すぎた。

 悪と判断した者には容赦なく暴力を振るい、逆に善とした者には施しを与える。

 まるで、自分が神にでもなったかのような振る舞いに、人々はいつしか怖れを抱くようになった。

 今まで傍観を貫いてきた警察も動き出し、書かれる記事は誹謗中傷の嵐。


 だが……英雄ひでおにはそれが理解できなかった。


(何故だ! 私は正しい! 間違ってなど、いるはずがない!)


 誹謗中傷が載った新聞を握りしめ、歯ぎしりする。どこからどう見ても、苛立っているのが目に見えた。

 しかし、それを咎める者はいなかった。

 何故なら……イトは今、別場所にいる。


 懐妊したのだ。そして、もう時期子が生まれる。

 実家のないイトの面倒を見ると、女将達が申し出てくれたために、そちらに預けているのだ。

 故に、英雄の異変に気付く者がおらず、より彼を狂気に走らせてしまっている。

 しかし……それも長くは続かなかった。


 ****


 隔離病棟。

 英雄は日に日に弱る身体と、蝕む病に苦しめられていた。

 結核。

 あの不可思議な力を持っているというのに、病にはなんの役にも立たなかったのだ。

 英雄は涙する。

 それは、死への恐怖ではない。

 自分が何者にも成れなかった……何も為せなかった。

 その憤りが、悔しさがただただ納得いかなくて、涙となっていた。


(もう時期、私は死ぬのだろう……。正義を為してきたはずの私がなぜ……? この力はなんのためにあったというのだ! 正義を為さずして、死ぬわけには……)


 苦しみの中、それだけが脳内を駆け巡る。自分はどこで間違えた?

 なぜこんな目に?


 どこまでも自分勝手に、英雄は理解を拒み、ただ自分を肯定する材料を探していた。

 どんどん身体がいう事を聞かなくなってきた頃に、英雄は……あることを思いついた。


(そうだ……。私が為せないのであれば……託すのだ。そう、我が子……いや我が孫の代まで、この力とその子達に見合う力を! そう、そうだとも! 残すのだ! 正義とは何なのか? それを! 後世に伝えるため!!)


 ここで力を使えば、自分の命は尽きる。

 なんとなくだが、そんな気がしながらも英雄は原初ノ夢を発動させた。


(我が無念を、晴らしたまえ! 残影ノ継承!)


 普通の人には見えない淡く白い光。それが放たれ、三歳程度に大きくなった英雄の子に宿った。

 遠く離れた地だが、受け継がれたのを確かに体感しながら力尽きた。


 ――桜川英雄、享年二十七歳。

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