呉れ手に懺悔

 血液は透明の管を通って、今、君の体から解き放たれる。ガラス越しに君を見続けて、今日で千二百五十八日目だ。伸ばされた、横たわる君の手のひらは、私たちを遮るガラスに届きもしない。それでも私は、ひたりと手のひらを合わせた。もしその手に触れることができても、君の体温はほとんど感じられないだろう。すでにその体からはたくさんのものが抜き取られ、すかすかになっていた。それでも君は生き続ける。失われた血液は湧き水のように溢れ、手足や内臓は植物じみて芽吹く。どれだけ検査をしても、体を構成するすべてのものは私たちと変わらない。君は人間なのだろうか。

「そらがみたいな」

 スピーカーを通して聞こえる君の声は、二人並んで授業を受けていた頃、木棚に並んだビーカーに光が射すのが綺麗だとか、裏庭の薔薇園が見頃だとか、そういう優しいことを私の耳に流し込んでくれた時と変わらない。君が望むなら、空を見せてやりたい。だけど私はあまりにも無力だった。

「今日は雲が多いよ……雨も降りそうだ」

「そっか、じゃあ、また、今度みせてね」

「……うん」

 呆れるほど拙い私の嘘に頷いてくれる、君の名前はソロム。十三歳の春、君は学校の舞台で劇を演じていた。腐りゆく体と、医者の話だった。君の隣で、熱心に覚えた台詞を紡ぐ私に照明を支える鉄骨が落下してきたのは、不幸な事故という結論に落ち着いた。学校中の人間が集まる中、君は不幸から私を庇い、鉄骨に足を切断されたね。ホースから放たれる水のように血が吹き出していたのに、舞台袖に飛んだ足をそのままに新しい足が生えたのを、その場にいた全員が目撃している。君は、困ったように笑っていた。私は何も言えなかった。

 あの日世界を混乱に陥れた君は、私との面会だけを条件に、全人類のドナーとなることを承諾した。

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