BIRTH

 年に一度、海は子供を産む。

 十年前から続いているそれは日本海に浮かぶ無人島、真島でのみ確認され、年を重ねるごとに、打ち上げられる子供は成長した。名前はイージャ。私は島で、彼の生と死を観察している。


 イージャの遺体を海に流した翌日、白いローブを持って部屋を出た。空が、まるでカーテシーのように、緩やかに星と濃紺を引き上げていく。優しい黄緑色の光が、地平線を低く細く照らしているのを視界の隅に感じながら、ひたすら砂浜を歩いた。夜明けだ。

 波に緩く体を押され、浅瀬に上がっているものを見つけた。淡い栗色の髪に、光を反射する砂のように白い肌。昨日、真夜中に流した遺体より手足が伸び、ほっそりとした少年の体つきをしている。この子は、今日で十一歳になった。

 私が近づくのに合わせて、少年は頬を打つ海水を飲み込んで目を覚ました。耳が痛くなるような咳を繰り返して起き上がる彼を、祝福する。

「おめでとう。君の名前はイージャ、意味は光射す、だ。……おかえり」

 混乱したイージャの肩にローブをかけてやり、私は砂に膝をついた。白衣が風を孕んで広がる。君はこれから、この島で育つ。そうして一年後には静かに息を引き取り、潮騒に揉まれ、少し大きくなって帰ってくる。「……おかあ、さん?」

「私は、お母さんじゃないよ」

 再誕したイージャは記憶を保持していない。これから、私はまた、島に唯一建てられた白い研究所で彼に筆記や計算、食べ物や生き物について教える。そして、沢山の検査をして、血液や組織のサンプル、レントゲン、脳波のデータを本土の施設に送る。もう十一年になるのに、この不可解な現象について、私たちは何も答えを得られないでいた。けれど、毎年死に、再び産まれてくる以外、この子は普通の人間と変わらない。 楽しければ笑い、悲しければ泣く、ただの子供だ。

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