ここは花園

 日曜の朝、服の山で目覚める。体を起こすと、重なっていたスカートやシャツが雪崩を起こして床に落ちた。そのままろくに身動きも出来ず、胸の下敷きになっていた鮮やかな服をぐしゃぐしゃに搔き抱いてうずくまる。僕が来る前から使われている古い木製ベッドの上でシーツや洋服と共に乱れ、それを世界に晒すことを拒むように、カーテンは閉じられたままだった。

 ノックの音が響く。まだ時計を見ていなかったけれど、きっともう七時を過ぎているのだろう。洗濯の回収だ。日曜日の洗濯係は葵と柊で、僕の部屋には必ず葵がやってくる。一度知られたことは、なかったことにできない。葵は僕より二つ年下のくせに世話焼きだった。いつものように返事をしないでいると、ゆっくりと、苦しそうに蝶番が鳴る。

 床板は小柄な葵の体重にさえ軋み、僕との距離を知らせた。「ヨシノ」と僕を呼ぶ葵の声が好き。葵になら、葵であればよかった。葵のやさしい手であれば、どれほど触られたってかまわない。けれど、葵はやさしいから。

「顔洗って」

 手を引かれ、水差しと桶の前へ連れられる。言われるがままに顔を洗って鏡を見れば、レースの施されたキャミソールの細く頼りない肩紐と、鬱血痕が目についた。僕はそのまま嘔吐する。

 この孤児院では、皆が花の名前で呼ばれる。僕は吉野。かつて、この国にあったという観賞用の美しい花にちなんでつけらた。


 土曜日の朝、パパが、と子供たちの静かな声が広がっていくのを聞いた。僕は洗濯当番で、洋服でいっぱいになったかごを持って、洗い場に向かうところだった。開け放たれた院長室の扉に子供たちが集まっている。中の様子を伺おうとすると、子供たちがさっと道を開けた。僕のためではない。果物ナイフを持った葵が、あいつの部屋から出てきた。そういえば、葵は今日、朝食当番だった。

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