永久の春に芽ぐむ
トコシエの体を焼いた後、骨を砕いて食べた。唾液と混ざったそれはかすかに甘く、あなたは死んでもなお優しいの、と苦しくなった。骨を飲み込むたびに、ぼくの頭の中で光がちかちかと瞬いて、二人で過ごした日々が蘇る。大好きだ。一人きりで死にかけていたぼくを救って、この世に生まれてきてよかったとまで思わせてくれたあなたのことが、大好き。
骨を掬う手が震えて、胸のあたりがぎゅうぎゅうと締め上げられたように痛む。ついにまったく動けなくなってしまったぼくは、吹き抜けた風が骨を攫って森に還すのを、何も出来ずに見ていた。
そうしてやっと、トコシエが死んでから初めて、声をあげて泣いた。
「メグムにしよう」
まさに森の木々が明るい陽を受けて芽ぐむ、生命に満ち溢れた春のことだ。トコシエはぼくに名前をくれた。アサヤケの実を採りながら「ちょっと安直すぎない?」と言ってみる。
「君はこれからいろんなことを吸収して大きくなるんだから、ぴったりだよ。それに、間違いなく私の名前よりずっといい」
自信ありげに言うトコシエは、その身に余る名前を嫌っていた。たしかに、永久だなんてあまりにも大それた名前だと思う。だけど、美しい響きはあつらえたようによく似合っていた。
「もういいよ。それだけあればパイを焼くには十分」
ぼくの抱える籠が、薄い紅色の果実で山盛りになっているのを見て、トコシエが笑った。ぼくはパイなんて作ったことがないので、どんなものか想像もつかないし、どれだけ材料が必要なのかも分からない。なんとなく恥ずかしくなり、余った分は砂糖漬けにすればいいでしょ、と言った。
「そうだね、じゃあ、余ったアサヤケはメグムが一人で漬けてみようか」
「ぼくが?」
「この前ユウグレを漬けたのとやり方は一緒だよ。大丈夫」
メグムはこれから、パイだって一人で作れるようになる。そう言ってトコシエは僕の手を引いた。
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