桜なんて咲くな
三月も半ば、ファースト・シーズンの準備は最終段階を迎え、イチを含めて十二人の子供がこの施設から国都の庭園へ旅立つ。イチはエネルギーの扱いが誰よりうまい。人工の種子なら簡単に発芽させてみせた。天然の希少種だって、イチなら。
「そんな顔するなよ、名誉なことだ。この力で桜が咲くんだって。三百年前に失われた国の花だぞ」
「花より命の方が大事だろ」
「さみしいなあハル。お前の名の季節に咲いた花なのに」
ニュースを楽しみにしていてくれ、とイチは俺の手を握る。冷え切った世界は春の復活を求めている。何世代もの子供たちの力で、ついに枯れた大木に蕾が現れた。
「お前に見せたいんだ」
俺は見たくない。桜なんて咲くな。そうすればイチはまだ生きていられるんだから。
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