もらった一文でSSを書く#2

古海うろこ

白昼夢の中の現実

 この森は昼でも鬱蒼として暗い。俺は地に伏して、背負っていた布袋を胸に抱く。古城からずっと走ってきた。体が重い。木々がざわついて侵入者たちの噂をしている。視界を埋める黒い土に、ひび割れた足が現れる。

「なにをしているの、コガネ」

 なにって、倒れているのさ。逃げるのに疲れたんだ。フクロウの尖った爪はつるりと滑らかで土の汚れも見当たらない。遠くにちらちらと松明の火が見える。

「ねえ、わたし西の草原へ行きたいわ。鳥たちの噂で聞いたのよ」

 俺を拾った時と同じように、美しい羽の生えた手指で頬を撫でるフクロウの体温が心を震わせる。それは唯一、白昼夢の中の現実だった。そうやって森の王に拾われた記憶を反芻し、生き延びようとしている。

「……わかった。フクロウ、今度は俺があなたを遠くへ連れていくよ」

 布袋の口を解く。未だ美しい黄金の瞳と視線が交わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る