第4話
……どうするべきなの……。
杖を握り締める。
単独……仲間はひとり殺され……ひとりは……。
……状況を検討しよう……。
アドレー隊長は拘束されているだけ、なのかも……。
「すー、はー……、すー、はー……、……」
深呼吸を5回した。
姿勢を低くして、身を隠しつつ、小走りに移動する。
もっと近づかなけ――
――アドレー隊長の声がして、ハッとした。
止まって、腹ばいになる。
じっと聞き耳を立てる。
……何を言っているか、よく聞き取れない……あの船がうるさすぎる……。
そっと様子を窺う。
アドレー隊長が、異世界人の船に向かって話しているっぽい……。
でも、リシマリス語よ。
異世界人が、こっちの言葉が分かるっていうの?
その時、きしむ音を立てて異世界の船の前面下部が開いた。
あれが扉?
モンスターが口をあんぐり開くみたいに開き、内部が見える。
貨物の木箱が積まれて、異世界人が数人立っていた。
アドレー隊長を見下ろしつつ、異世界人は開いた下顎部分を橋の代わりにして、池のほとりと船とをつなげ、降りて来る。
3人の異世界人が姿を現す。
私も実物を見るのは、これで2回目。
私達の倍ある背丈、前に見た時は白い体毛だったけど、今回のは黒い体毛。
肌の色が、私たちの灰色と違い、薄い橙色。
そして、これら以外すべて私達と同じ見た目……。
異世界人は、汚い色のまだら模様だったり、ぐちゃぐちゃの模様だったりする衣服を着て、私達の腰に当たる部分に巻いたベルトで締めている。
武器は、腰に短刀かなにかを差しているだけで、他は見当たらない。
でも、どこに隠し持っているとしてもおかしくない。
「もうひとりは、あそこにいるぞ!」
3人のうち真ん中の異世界人が、私達の言葉で言った。
アドレー隊長がバッと振り返る。
「カロルだな! 一体――」
隊長は言い淀んで、そのまま黙り込んだ。
「もう誤魔化す時間がもったいない! 目撃者は始末しないと!」
再び、真ん中の異世界人が言った。
私は深呼吸して、
「どういう事ですか! 異世界人と、手を組んでいたのですか!」
ここでもう一度深呼吸した。
「しかも、あなたは、マイルを殺しましたね!」
全ての息を吐きだして、叫ぶ。
アドレー隊長は苦い顔になった。
「今日は、ここを避けて、密猟の探索ルートを行くはずだった! おまえが、上流に何かあるなどと言い出さなかったらこんな事にはならなかった!」
言いつつ、こっちに近づいてくる。
「そしてお前がこの船に気づかなければ、こんな事にはなっていなかった!」
「どういう事か、すべて大司教の前で告白してもらいますから!」
私はもう一度深呼吸した。
冷静にならないとっ。
この状況で、私はどうすべきか……。
隊長の背後で、こっちを見ている異世界人の3人を見る。
「若いお前にはわからんさ!」
アドレー隊長が、苦々しく笑って、
「なにが、世界を守る役目には生きがいしかないだ!」
首を振り、
「なにが、異世界環境保護だ! なにが、我が国のためだ青髭王め!」
隊長が、怒りを叫んだ。
私は、怒りが湧いてきた。
「あなたはっ、15年も戦った英雄でありながらっ、いつからこんな事を!」
「俺達がどうなろうと、何をしてようが政府は無関心だ! 希少なモンスターがどうなろうと、森の草花が枯れようと、誰も気に留めない! そんな所で15年も戦い、俺たちは世界を守ってきた! それで俺らが得たものは何だと思う! こうして兵士としての寿命をとうに過ぎても、まだ戦わなけれゃ食っても行けねぇ!」
犯罪の大きさがだんだんとわかってきた。
異世界人との1回の取引ではない。
多岐にわたり、回数を重ねている。
そうか、どうりで隊長はずっと単独行動を好んでいたのね。
「異世界人と、何をしていたんです!」
「誰も、気にしてないんだ! カロル!」
「私は気にします! あなたを……」
私は、杖を振りかぶった。
「動くなカロル!」
制止の声に構わず、私は杖を振り、後方にジャンプする
瞬間、アドレー隊長越しに異世界人が腰に差していた物を取り出した。
それは短刀ではなかった。
四角い、筒状の物をがっしり掴んで私に向けて両腕を伸ばし、
――バンッ。バンッバンッ。バンッバンッバンッバンッ。
そこから、短い破裂音が何度も鳴って、森の空気を振動させる。
音と同時に、四角い物からは光がほとばしった。
同時に、私は体に痛みを感じた。
お腹に2か所と、右腕と、胸と左肩。
痛烈な痛みと共に、真っ赤な血が噴き出す。
何の、魔法……これが、異世界人の、力……。
体は仰け反り、ジャンプして空中に居た私は、受け身も取れず墜落した。
目の前が、真っ暗になっていく。
意識が遠のいていく……。
「すまない、こんな事になって……」
近くで、アドレー隊長の声が聞こえた。
私に言ったのか、異世界人に言ったのか、わからない。
異世界の守護者 フィオー @akasawaon
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