第2話


 斜面を進んでいく隊長の後を付いて行くと、やがて、急に青い空が見えてくる。


 僕らは台地の上に出た。


 背丈ぐらいの草が生い茂る原っぱが広がっている。


 カロルさんが背伸びして、じっとあたりを注視し、


「あそこです」


 何もない原っぱの1点を指す。


 僕も背伸びして、その1点を目を凝らして見た。


 ……あっ……。


 緑の草と、青い空の境目で、かすかに、何かが動いている……。


「異世界人共め、デカい図体を丸めて移動してやがるな」


 アドレー隊長がうなった。


 異世界人は僕らと生物的には近く、皮膚の色や背丈が倍近くあるのを除いて、見た目はまったく一緒だ。


 体毛のほとんどない体に、直立2足歩行で、指の数は10本、知能も高く、言葉でコミュニケーションをするくらいだ。


 あまりに僕らに似すぎた。


 そのために、衝突が起きた。


「新人共は引くんだ、てめえら連れては行けない、俺に任せろ!」


 アドレー隊長が僕らに山を下れと指示する。


「なぜでしょうか、私達なら大丈夫です」


 カロルさんが、杖を構えた。


「それに、私達だけで行動させるのは規律違反であります」

「この状況で規律もクソもあるか」

「お言葉ですが、どのような場合でも規律はございます隊長。私達に行けと言うのなら全員で行動しないと――」

「――異世界人を放っておけるわけねぇだろ!」


 アドレー隊長とカロルさんが言い合いを始める。


 僕は黙っていたが、カロルさんが何を言っても、帰れ1点張りのアドレー隊長が、だんだんと攻撃的になっていった。


 これは止めないとっ。


 と思った時だった。


 被りっぱなしだったカロルさんのフードが爆風に脱がされ、緑色の髪がなびく。


 爆音が響いた。


 熱風が熱いっ。


 僕らは体が吹き飛ばされるのを、しゃがんで堪えた。


 前方の野原に火の玉が着弾し、土を巻き上げる。


「マイル、カロル、こっちだ! 引くぞ!」


 アドレー隊長が走り出した。


 僕らは来た道を引き返し、斜面の森に身をひそめる。


 僕らを狙って、火の玉が次々と飛んできた。


 地面が振動する。


 異世界人は、どういうつもりなんだ!?


 こんなにも攻撃的だったなんてっ!?


「てめぇら大丈夫か!」

「大丈夫っす!」


 僕は身を丸めながら、顔だけ向けて返事する。


「隊長、戦いましょう! 確認しましたが、船は1艘しかありませんでした」

「……カロル……」


 隊長は困ったように目を瞑った。


 ゆっくりと目を開けて、


「……しょうがないか、行くぞ。マイル、立ち上がれるな!」

「は、はい!」


 振動と土煙の中、僕は立ち上がる。


 異世界人の火の玉によって、燃えだす炎の原っぱに、アドレー隊長が駆けこんだ。


 カロルさんと僕が後を追いかけていく。


 落ち着け、初実戦だぞ!


 僕は、呼吸を整え、バクバクする心臓をなんとか収めようとした。


 でも、ぜんぜん落ち着いてくれない。


「風ジャンプだ、てめぇらの事なんか気にせずジャンプするからな、しっかりついて来い!」


 と、アドレー隊長が杖を振り、ジャンプする。


 アドレー隊長の体が飛んでいるように浮かび上がり、高く燃える原っぱを飛び越えていく。


 すぐに、横のカロルさんが、高く風ジャンプし続いていく。


 すぐに2人の姿が見えなくなった。


 落ち着け……。


 集中し、体内の魔力を高め、杖から放出する感覚っ……。


「風の力を!」


 杖を力強く振りながら、ジャンプする。


 僕の体が、高く高く飛び上がっていった。


 燃える原っぱを下に見ながら飛び越えていく。


「ああっ、しまったぁ……」


 背すじがゾッとした。


 僕の体が、勢い余って森の木々よりも高くあがってしまう。


 力加減を間違えた……着地のために全部出しきってジャンプしちゃいけないんだった……。


 落ちる!


「うああああっ」


 勢いよく、墜落する。


 も、もう一度っ。


「風の力を!」


 激突の瞬間、ふわりと体が浮いた。そして再び落ちる。


「痛ててっ」

「バカ、何やってるの」


 カロルさんが、尻もち付く僕の手を引っ張り立ち上がせてくれた。


 死んでもおかしくなかった、注意しないと……。


「2人とも伏せろ、早く!」


 目の前に居た、アドレー隊長が叫ぶ。


 僕らの頭上を、けたたましい音を立て異星人の乗り物が過ぎ去っていった。


 回転する羽と、全身を鉄で覆われた空飛ぶ船だ。


 森の中へと高度を下げながら飛行している。


「逃げる気だ、追いかけるぞ!」


 アドレー隊長が踵を返し、異星人の船を追いかけ、風ジャンプした。


「行くよ! マイル!」


 カロルさんも、隊長を追いかけて来た道を引き返していく。


「よし!」


 ちゃんと魔力量をコントロールし、落ちる時ようを残しておくように……。


 杖を振り僕も風ジャンプ。


 再び燃える原っぱを飛び越えて行った。


 よしっ、今度はちゃんと飛び越えれたぞ。


 僕は原っぱを、徐々に魔力を出し、滑空するように落ちて火の海を後にする。


 前方では、カロルさんが山道沿いに船を追いかけようとしている。


 対し、アドレー隊長は、森の中へ入って追いかけて行った。


 僕も急がないとっ。


 道沿いに行こう、風ジャンプ!


「ああっ、しまったぁ」


 森へ向け飛んでしまった。


 勢い余って、木の樹冠に突撃してしまってローブが引っかかってしまった。


「くそっ、もっと低くで良いんだ」


 体をじたばたさせて、なんとか引っ掛かってる部分を取ると、僕は墜落していく。


 風の力をっ。


 落ちながら杖を振った。


 ふわりと体が浮いて、再び落ちていく。


「ああっ、痛てて」


 くそっ、2回目だぞ、我ながら魔力の無駄遣いだ。


 あと、皆を見失ってしまった……。


 異世界人の居場所は、あの船の出す轟音でだいたいわかる……落ち着け……。


――カサッ。


 なんだ?


 背後で足音がした。


 振り向くと、


「アドレー隊長!」


 ……なんだ?


 ……変だぞ?


「どうしてこ――ウゴァッ、アアッ、何を!? あうぅぅ! あああああっ!」

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