Day.27 渡し守

 ぼくは将来、お父さんみたいになりたいです。

 お父さんは毎日、川で働いています。朝から晩まで船をこいで、たくさんのお客さんを向こう岸に送るのがお仕事です。

 お家に帰ってくることはほとんどありません。舟をこげるのはお父さんだけで、他の人には任せられないんだそうです。だから一緒にどこかにお出かけしたことはなくて、お父さんはいつもごめんなって謝ります。ぼくもちょっと寂しくなる時はあるけど、どこかに遊びに行く代わりに、時々船に乗せてくれるので嬉しいです。

 お客さんは色んな年齢の人がいます。お客さんはお父さんにお金を渡してから船に乗るけど、たまにお金を持っていない人もいて、お父さんはそういう人を追い返しています。かわいそうだなと思ったけど、仕事なのでしょうがないです。

 たまにお金を払わないで、無理に乗ろうとする人もいます。文句を言うし、暴力を振るう人もいます。昔に比べて無茶苦茶な人が増えたって、お父さんはぼやいていました。

 お金を持っていても、乗せちゃいけない人もいるんだそうです。間違えて川の方に来ちゃった人を見極めて、元いた場所に戻れと怒るのもお仕事だって言っていました。

 お客さんは毎日来るけど、いつも同じ人数が来るわけじゃありません。お父さん一人じゃ何日もかかるくらい多い日もあるし、全然いなくて暇な日もあります。そんな時は舟をこぐ練習をさせてくれるけど、なかなか上手くいきません。前に進まなかったり、ひっくり返りそうになったり。

 早く舟をこぐのが上手くなって、お父さんみたいな冥府の渡し守になるのが、ぼくの夢です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る