　あら先生。主人ならまだ会社なの、よろしければ中でお待ちになる？

　昼間に息子とクッキーを焼いたんです、お待ちの間にどうぞ。今日も遅くまでお話しになるんでしょう。甘いものを食べると頭がよく回りますよ。

　そうそう。この前くださった薬、娘に毎日飲ませているんですけれど、さすが先生、もう効果が出ております。脚が少しずつくっつき始めて、指先の方はすっかり魚のひれみたいになりました。

　娘には「よく眠れる薬よ」と渡しました。もともと不眠症で悩んでいた子でしたから。脚も薬の副作用でそうなったのであって、飲まなくなれば治ると主人が説明したらあっさり信じて。

　愚かな娘よね。頭の悪さも前妻譲りだもの。おかげで薬の効果は確認できているけれど。

　気になるのはその先ですね。人魚の肉を食べれば不老不死になるって、最近流行っているでしょう？　でも娘のような、薬の影響で変化した似非（えせ）人魚を食べた場合はどうなるのかしら。

　やだ、そうでしたね。それを調べるために薬を飲ませているんでした。私ったら恥ずかしい。

　変化中の痛みはないんじゃないかしら。今のところ娘から一言もそんな台詞聞いていません。

　娘が人魚に成った暁には、息子に肉を食べさせる予定です。あの子の夢は主人の会社を引き継いで、先生のような素晴らしい頭脳を持つ方をいつまでも支えることですから。

　そうそう、息子が「すやすや眠っている間に人魚に成れると謳って、あの薬を売ってはどうか」と夫に提案していたんです。そうすれば娘以外のサンプルも簡単に取れる上、研究資金も稼げると。

　どう？　悪い話じゃないでしょう？

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