Day.25 報酬

 友人の様子がおかしい。ここ数日、部活が終わる頃合いになると妙にそわそわしているのだ。あいつ変じゃね? と他の部員に聞いてみても、全員にきょとんとされた。

 誰も分からないなら、本人に聞くしかない。友人が校門を出たところで肩を叩いて話しかけた。

 勉強だの部活だの、適当な世間話を挟んでから本題に入る。率直に様子が変だと伝えれば、訝し気に眉を寄せられた。自覚無かったのか。友人は心当たりを探るように天を仰いでから口を開く。

「日ごろのお礼にってなに貰ったら嬉しい?」

 なんだその質問は。部活終わりで空腹なのもあり、思いついたのは飯か菓子くらいだ。そう伝えれば「そういうことじゃない」と仏頂面をされた。「後輩に渡そうと思って。女子の」

 その一言で納得した。友人はよく駅で読書をするのだが、夢中になり過ぎて電車に乗り損ねることが多い。最近はそれを後輩が防止してくれるため、なにかしら礼をしたくて悩んでいたわけか。

 俺の記憶が定かなら、こいつから女子になにか渡したいと思うなんて初めてのことだ。はっきり言って信じられない。

「今のところ思いついたのは本なんだが」

 それは後輩が喜ぶものじゃなくて、お前が喜ぶものだろう。あれこれ候補を考えつつ駅に向かう道すがら、後ろから「せんぱーい」と呼ばれた。振り返れば例の後輩がこちらに手を振っている。

 それを見た途端、友人の頬が明らかに緩んだ。後輩もまた友人の微笑みを見て頬を染める。

 大それた礼なんてしなくても、あの子はお前が笑うだけで十分じゃねえの。言葉にする代わりに、友人の背中を思いっきり叩いてやった。

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