Day.28 方眼

 夏休みに母の実家へ帰省すると、小学生の従弟が縁側で寝転んでいた。夏バテでもしてだらけているのかと思えば、どうも違う。手元にコピー用紙ほどの大きさの方眼紙を置いて、色鉛筆を次々に持ち替えては唸っている。

 なにをしているのか訊ねた僕に、従弟は仏頂面で唇を尖らせた。

「自由工作とか自由研究とか、なんもやりたいことないなぁて言うたら、お父さんがこれ渡してきてん。マス目ちょっとずつ塗りつぶして、遠くから見たらおっきい絵ェになるようにするんやって」

 つまりモザイクアートの制作を提案されたのか。しかし要領がいまいち分からないようで、方眼紙は大部分が白い。縁側から見える景色を描くつもりらしいが、いささか難易度が高すぎる。

 もう少しレベルを落としてはどうか、庭の池にいる鯉でも描いてはどうかとアイデアを出してやる。一通り聞いてから、従弟はなぜか目をキラキラ輝かせて僕に色鉛筆を差し出してきた。

「お手本見せてや。やり方分からへんし」

 余計な口出しをするのではなかった。期待の眼差しが純粋すぎて痛い。

 絵を描くのは嫌いではないが、さすがにモザイクアートの経験は皆無だ。渋々色鉛筆を受け取って、まずは全体図のイメージを云々とそれらしいことを言いつつ線を引く。初めこそ笑顔でうなずいていた従弟だが、やがて出来上がった輪郭を見て首をかしげた。

「もしかしてオレより絵ェ下手ちゃう?」

 なんの気遣いもない直球な感想が胸を抉る。結局、従弟は僕の姉に助っ人を頼んで自由工作をやり遂げたけれど、なんだか負けた気分になった。

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