Day.23 静かな毒
その後輩は音もなく体を蝕む毒のように、僕の日常にゆったり入りこんできた。
初めて会ったのは高二の春だ。女子柔道部の新入部員だった後輩は、なぜか男子柔道部の僕に勝負を挑んできた。どうやら腕に相当自信があったらしい。負かしてやったが。
それ以来交流は途絶えていたが、半年前だろうか。下校時間に高校の最寄り駅で顔を合わせてからというもの、僕がベンチで読書していると、彼女は隣に座るようになった。しかし喋りかけてはこない。無言で僕の横に腰を下ろし、電車が到着した時にだけ「先輩」と呼びかけてくる。
「先輩って放置してたら、ずっとあそこで本読んでそうじゃないですか。でも読書の邪魔しちゃ悪いですし、そろそろ帰らないとマズそうだなって時だけ声かけることにしたんです」
実際、駅で顔を合わせたのも、僕が読書に耽って電車に乗り遅れたのがきっかけだ。
わずかに触れた肩から伝わる温度、気紛れに奏でられる鼻歌、スズメの囀りに似た声――ひどく鬱陶しいわけでもなく、追い返すのも面倒だからと放置していたのが、いつの間にか日常になった。
もちろん後輩がいない時もある。下校時間が合わなかったり、体調不良で休みだったり理由は色々だ。その際は妙な物足りなさを覚えたし、そんな自分に驚きもした。
きっと僕は、後輩中毒に陥っているのだろう。いなくても問題なかったはずなのに、彼女はいつしか必要不可欠な存在になっていた。
どうしてくれるのだ、と恨みがましい視線を向ければ、後輩は首をかしげて笑う。可愛いと思ってしまうあたり、僕は骨の髄まで毒されている。
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