Day.22 賑わい
太鼓の音が聞こえて、夜中に目が覚めた。窓を開ければそれはより明瞭になり、気のせいではないと分かる。
近くの公民館では、明日開催の祭りの準備が進んでいる。近所の子どもたちがリコーダーを鳴らし、交代で山車を引っ張って練り歩くのが毎年の見どころで、私も何度か参加したことがあった。
だから分かる。先ほどから聞こえる太鼓の音は、山車に取りつけられている和太鼓のそれだ。
いたずら防止のため、山車は公民館のそばの倉庫にしまってあるはずだ。もしかして誰かがそこに忍びこみ、勝手に打ち鳴らしているのだろうか。
窓から身を乗り出して公民館を見やる。目に映ったのは、明らかにおかしな光景だった。祭りの当日でもないのに、屋台のテントたちに煌々と明かりがついている。
宙をふよふよと行き来しているのは火の玉だ。フランクフルトを齧る巨大な骸骨だとか、後頭部が異常に長いおじいさんが射的を楽しんでいたり、現実味に欠けた集団が屋台を賑わしている。
さらによく見れば、しまわれているはずの山車がゆっくり動いていた。綱を引いたり、代わるがわるに太鼓を叩いているのは異形としか表しようのない子どもたちだ。誰かが力を込め過ぎたらしく、綱が切れちゃったあ、と騒いでいる。
ああ、きっとそうだ。寝苦しさのあまり私は夢を見ているに違いない。だから私以外の誰も起きてこないのだ。結論付けてエアコンをつけ、窓を閉めて布団にもぐる。きっと朝になれば、屋台のテントも元に戻っているだろう。
山車の綱が切断されてる、と祭りの役員が騒いでいたのは翌朝のことである。
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