Day.19 爆発

 芸術家の友人に「作品が出来たから見てくれ」と山に呼び出された。かつて城があったらしいそこは円形に開け、灼熱の太陽に照らされている。

 汗だくで現れた僕を、友人もまた汗と土まみれの顔で出迎えた。よく来たと抱きしめられるのは暑苦しいはずなのに、不思議と不快ではない。

「急に思いついてさ。今回の作品はこれだ!」

 友人は円の中心を指さした。そこには大の字で仰向けに男が寝転がり、傍らには土の山が盛られ、頂上に武骨なシャベルが突き立てられている。暑さのせいか、そのどれもが揺らめいて見える。

 あれが彼の作品なのか。首をひねる僕の手を引き、友人は男に近づく。あの男もこんな猛暑の中、よく微動だにしないで寝転んでいられるものだ。

 と思いつつよく見たら、男の頭が爆発していた。

 西瓜が内側から弾けたみたいに、下顎以外の箇所が吹っ飛んで地面に散らばっている。べ、と垂れた赤い舌が妙にシュールだ。

「芸術は爆発だって言うだろ? こいつは溢れる芸術を抑えきれず、制作途中に頭を爆発させてしまった〝俺〟を表現してる。他の見どころはこれ」

 友人が示したのは蟻だった。山の中から現れた行列が、男のところまで続いている。

「蟻は〝俺〟をどこかに運んでいくから、少しずつ作品が削れていく。行列の形も常に一定じゃない。これは変化の無情さと美しさの現れなんだ!」

 山が拍手喝采しているように蝉時雨が降り注ぐ。よく出来てるね、と僕も素直に賞賛を述べれば、彼は無邪気に、しかしどこか昏く笑った。

「お前に褒められるのが一番嬉しい。ありがとう」

 天高く伸びる入道雲が太陽を隠す。辺りに落ちた影は、まるで友人に潜む闇の象徴のようだった。

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