Day.15 解く

 お父さんとお母さんはいわゆる〝おしどり夫婦〟だ。例え子どもの私の前だろうとお構いなしにイチャイチャする。「あなたのご両親はとっても仲良しね」と、純粋に羨ましがられることも、皮肉がたっぷりに言われることもある。

 二人の仲が良いのは多分、部屋に飾ってある人形の効果だ。どこかの先住民族に古くから伝わる男女一対の人形なのだが、願いごと別に手足を結ぶと成就すると言われ、お父さんたちが若かった頃に流行ったことがあるらしい。

 家にはそれが飾ってあり、人形は互いを固く抱きしめている。「夫婦円満が続きますようにって願掛けなんだよ」と教えてくれたお父さんの粘つく笑顔が、気持ち悪かった。

 私とお母さんの血は繋がっていない。お母さんはお父さんの再婚相手なのだ。元々のお母さんは浮気して出て行ってしまった。

 継母は私を大事にしてくれるけれど、あくまで表面上で、内心では邪魔者扱いしているに違いない。百点だったテストにコーヒーを溢されたり、飼っていたインコを窓から逃がしたりと、偶然を装った陰湿な嫌がらせをくり返してくるからだ。

 お父さんは「悪気はないんだから許してやって」と聞く耳を持ってくれない。あの女に浮かれまくっているお父さんに、私の言葉は届かなかった。

 だからせめて、と私はあの人形を手に取る。父にとってこれは祝福の人形だろうけれど、私からすれば呪いの道具だ。

 二人が離婚してくれますように、と願いを込めて、絡み合う人形の手足を強引にほどく。どうか、どうか願いが叶いますように。

 こくん、と僅かに人形がうなずいた気がした。

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