Day.14 お下がり
ずっとナイショにしてたことがあるんだ。
僕の名前、本当は僕の名前じゃないの。もともとは僕のお兄ちゃんの名前なんだ。
お兄ちゃんは僕が生まれる一年前に、交通事故で死んじゃったんだって。ママは悲しくて寂しくて、僕にお兄ちゃんと同じ名前を付けたみたい。
この服も、靴も、お兄ちゃんが今の僕と同じ年齢の時に着てた服なんだよ。使ってる部屋もベッドも、食器もランドセルも、全部、全部お兄ちゃんが使ってた物ばかり。
ママは僕をよく怒るんだ。「あの子と同じものを使ってるのに、どうしてあの子と同じにならないの」って。お兄ちゃんと同じ筆記用具を使っても、僕はお兄ちゃんみたいに勉強が出来ないから。
でも僕も、たまにはお兄ちゃんのお下がりじゃなくて、自分の好きなものを着たり使ったりしてみたい。こんなこと思ってるなんてバレたらすっごく怒られるし、家じゃ絶対に言えないけど。
もうすぐお兄ちゃんが死んだ年齢になる。お兄ちゃんより年上になったら、ママは僕を僕として見てくれるかな。僕が着たいものを着ていいって言ってくれるかな。お兄ちゃんの名前じゃなくて、僕の本当の名前で呼んでくれるのかな。
本当の名前なんて、あるのか分からないけど。
僕がこんなこと話したなんて、ママには絶対に秘密だよ。「あの子は私に隠し事なんかしなかった」って、また怒られちゃう。
もし僕に本当の名前なんて無かったら、君が僕に名前を付けてよ。お下がりなんかじゃない、僕だけのプレゼントがずっと欲しかったんだ。それを好きな子から貰いたいって思うのは、おかしなことじゃないでしょ?
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