Day.11 飴色
通学途中に建っているそのお屋敷は〝飴色の館〟と呼ばれている。屋根や壁、窓枠、門などのパーツが、全て艶めいた橙色だからだそうだ。
僕は朝と夕方にお屋敷の前を通る。ヨーロッパの貴族が住んでいそうなそこは、日本には不似合いなはずなのに不思議と景色に馴染んでいた。
住人は見たことが無い。窓が開いているのを見かけたことがあり、誰も住んでいないわけでは無いと思う。暮らしているのはきっとお金持ちだ。飴色にこだわっているのだから、もしかすると家具や食器までそれに統一されていたりして。
そんな想像をしながら、部活終わりにお屋敷の前を通った時だった。ぬっ、と門からタキシード姿の老紳士が現れて、僕に深くお辞儀する。
「突然呼び止めてしまい申し訳ございません。お嬢さまがあなたとお話ししたいと仰せです」
なにが起きたのか分からないまま、呆けた声で返事をした。僕は老紳士に背中を押されながらお屋敷に足を踏み入れる。
扉が閉まる音を聴きつつ辺りを見回して、圧倒された。想像通り、目に映る全てが飴色だ。絨毯や花瓶、階段やその横にある扉まで、なにもかも。
「突然お招きしてごめんなさい」階段からコツコツと麗しい女性が下りてくる。「いつも窓辺からお見かけしていました。よく日焼けされていて、健康的なお方だなって。だから」
女性がパチンと指を鳴らすと、階段横の扉が開け放たれた。そこから続く廊下の両脇に、飴色のマネキンがずらりと並んで――いや、あれは本当にマネキンだろうか。
「私のコレクションに加わって下さらない?」
がちゃん、と背後で鍵の閉まる音がした。
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