Day.9 肯定

 気まぐれで拾ったそいつは犬のようだった。

 良くも悪くも素直で、俺の言うことはなんでも聞く。育った環境の影響か、食事の作法だったり言葉遣いだったり、問題を上げればきりがない。

「拾ったのはお前なのだから、教育もお前がやれ」と親父に命じられ、渋々引き受けた。なにかと注意すれば「すんませんっス!」と元気な返事がくるものの、いずれも正されているとは言い難い。はっきり言って疲れない日は無かった。

 それでも途中で投げ出さず、面倒を見続けたのは、こいつが俺のすべてを肯定してくれるからだ。

 俺のことを「兄貴」と慕ってくれて、手本を見せれば「すげぇっス!」「ヤバいっス!」と目を輝かせる。こいつの口から俺を否定する言葉を聞いたことはなく、絶対に俺を蔑んだりしない。

 憧れを真っすぐに向けられるのは心地よかった。今まで兄貴分たちに散々馬鹿にされてきた俺でも、こいつには必要とされているのだ。

 ならば俺も、こいつ――大事な弟分の全てを肯定してやろう。拾ったばかりの頃に「褒められたことないんスよね」とぼやいていたのが常に頭のすみにあり、指示したことをやり遂げるたびに大袈裟くらい賞賛してやった。

「この前『スイカを割るには輪ゴムが何本必要か?』って実験の動画観たんス。俺もやってみてぇってなったんスけど、スイカ買いに行くの怠くて。そしたら親父が『処分するから要らない』っておっさんくれたんで試してみたんスよ!」

 動画を見せてくる弟分は嬉々として、罪悪感など微塵もない。実験結果は成功しており、弟分の狂気から目を背けながらも、すごいじゃないかと抱きしめて頭を撫でてやった。

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