Day.8 こもれび
いつもと変わらない道を歩いていると、目の前にぽつんと小さな光が落ちた。木の葉の隙間をかいくぐって地面に落ちるこもれびのごとく、それは前後左右にふらふらと揺れる。
気になって近づけば、まるで僕から逃げるように少し遠ざかった。一歩進めば、光もそのぶん離れる。逆に後ずさるとこちらに寄ってきて、怖さや不思議さより動きに対する面白さが勝った。
余談だが、道の両脇に樹木はあるけれど、どれも細くて背も低い。ここ数年の間に植えられたであろう若いものばかりだ。太陽と青空は雲に覆われて、こもれびなんて見られる条件ではない。
冷静に考えれば、それくらいのこと分かるはずだった。なのに僕は、なぜかそれを追いかけたくて仕方なかった。
あちらへゆらり、こちらへふわりと惑わすように、光は僕の数歩先を滑る。このまま単に歩いていたのでは、一生距離も縮まらないし捕まえられそうもない。
ふむ、とうなずいて僕は立ち止まった。それに応じて光も止まり、まるで互いがどう動くのか探り合うような時間が数分流れる。
膝を屈めて、僕は大きくジャンプして光に飛びかかった。動きを予見していなかったのか光は逃げもせず、びくりと震えるだけで離れていかない。
やった。追いついた。達成感のあまりガッツポーズをしながら空を仰いだ瞬間、僕を覗きこむ奇妙な女と目が合った。女は三メートルをゆうに超す身長で、長い髪を垂らしながらニィッと笑う。一本にまとめられた髪の先は、チョウチンアンコウの頭についている疑似餌に似ていた。
がぱ、と音を立てて、女の口が耳まで裂ける。
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