Day.4 触れる

 君かい、夜な夜なこの廃ホテルに忍びこんでる動画配信者ってのは。心霊的ものを撮りたいのか知らないが、危ないから早く帰った方がいい。

 俺? 俺はホテルが営業してた頃から警備員を勤めてる。その頃から噂があってね。ここが建つ前にあった豪邸で殺人事件があって、その幽霊が仲間欲しさに生きてる人間をあちら側に連れて行こうとするんだって。幽霊に触れられたが最後、問答無用で仲間にされてしまうんだと。

 ああコラ、言った先から走り出すんじゃない。そんなに腕を振り回したって、俺は簡単に放してやらないぞ。いいから話は最後まで聞きなさい。

 豪邸が取り壊されてホテルが建ったけど、なんですぐに廃業して放置されたと思う。噂は本当だったからだ。

 初めは客、次に従業員。そんな感じで続々と「幽霊を見た」「腕を掴まれた」と証言して、売り上げが激減した挙句、ついに行方不明者まで出た。恐れをなした支配人はホテルを取り壊そうとしたけど、かつての豪邸の住人らしい男が夢に現れて「建物を壊すな」と訴えた。そうしてホテルは今もここに残り、君のような好奇心旺盛で向こう見ずな若者がよく来るようになったわけだ。

 どうしてだろう。俺が「危ないから帰れ」と言えば言うほど、むしろみんなやる気を出してホテルに行こうとするんだ。本当、馬鹿ばっかりで嬉しいよ。

 建物を壊すなと訴えた理由? 単純だよ。せっかく仲間が増えたのに、憩いの場を瓦礫の山にされたくないだけさ。

 おめでとう、君は今日から俺たちの仲間だ。きっとみんな喜んで迎え入れてくれる。

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