Day.3 文鳥
窓ガラスを叩く音がして、夜中に目が覚めた。リズミカルなそれは無視しても続き、仕方なく布団から出てカーテンを開ける。窓ガラスを叩いていた犯人は手のひらサイズの文鳥だった。黒い頭に白い頬、灰色の羽にほんのり赤い嘴が、月明かりに照らされてはっきり分かる。文鳥は小首を傾げ、ベランダの手すりに乗ると何度か鳴いた。
平時であれば可愛いと思えたかもしれないが、時刻は深夜二時を回っている。眠気が勝ってあくびが止まらない。カーテンを閉め直した途端、また窓ガラスが叩かれた。再び外を確認すれば、文鳥は忙しなく右の方へ羽ばたいて消えたかと思うと、囀りながらまたこちらに現れる。
そういえば、と閃いた。右隣にはここと同じ間取りの部屋があり、年配の女性が一人で暮らしていたはずだ。顔を合わせると挨拶くらいは交わしたが、最近は姿を見ていない。
胸騒ぎを覚えてベランダに出た。そのまま身を乗り出して隣の部屋を窺おうとしたが難しい。今度はなるべく静かに共用通路の方へ出て、女性の部屋のインターホンを押す。しかし応えは無い。
試しにドアノブを回すと、なんの抵抗もなく開いた。失礼を承知で部屋に上がりこめば、意識を失った女性が倒れている。大丈夫ですか、と声をかければかすかに呻いていた。
救急隊を呼びながら、ふと目に留まったものがある。古そうな、しかし手入れされた鳥かごだ。中には写真立てが入っており、そこに飾られている写真は先ほど見かけた文鳥と同じではないか。
まさか文鳥の幽霊が、助けを求めて飛んできたのだろうか。そうだ、と答えるように、姿の見えない鳥の囀りが響いた。
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