Day.2 透明
「もし透明人間になれたら何をしたい?」
学者の友人に問われて、俺はかつて夢を語った。
立ち入り禁止の場所に入ってみたい。芸能人の家に上がりこみたい。好きな人の入浴シーンとか見てみたい。他にも明け透けな欲望を列挙した覚えがある。
歳月が流れて、ある日友人から連絡があった。
「透明人間になれる薬を開発したんだ。だけどまだ人間で試せてない。お金は払うから、効果を確認させてくれない?」
俺は二つ返事で了承した。なにせ〝闇バイト〟に手を出す程度に金に困っていたのである。薬の効果があろうがなかろうが、金が貰えるなら引き受けない選択肢は無かった。
到着するやいなや、説明もそこそこに試験管いっぱいに入った〝透明人間薬〟を渡された。スムージーに似た見た目だが色は黒紫で毒々しく、香りと味は
飲んでから数分は特に異変は無かった。しかし指先から手首にかけて徐々に見えなくなり、服を脱いでみればすでに下半身が完全に透けていた。
薬の効果に、俺と友人は歓喜した。あと一時間もすれば全身が見えなくなるだろう。
友人に感謝を述べようとしたのだが、突然腹のあたりから激痛が走った。え、と目を落とせば、友人が包丁を握っている。
「透明になったからと言って、刃物が通り抜けたりするわけじゃないんだね。あと気になるのは死んでからも薬の効果は続くのか……それまで観察させてもらうね」
友人の冷静な声が、やけに遠くから聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます