Day.2 透明

「もし透明人間になれたら何をしたい?」

 学者の友人に問われて、俺はかつて夢を語った。

 立ち入り禁止の場所に入ってみたい。芸能人の家に上がりこみたい。好きな人の入浴シーンとか見てみたい。他にも明け透けな欲望を列挙した覚えがある。

 歳月が流れて、ある日友人から連絡があった。

「透明人間になれる薬を開発したんだ。だけどまだ人間で試せてない。お金は払うから、効果を確認させてくれない?」

 俺は二つ返事で了承した。なにせ〝闇バイト〟に手を出す程度に金に困っていたのである。薬の効果があろうがなかろうが、金が貰えるなら引き受けない選択肢は無かった。

 到着するやいなや、説明もそこそこに試験管いっぱいに入った〝透明人間薬〟を渡された。スムージーに似た見た目だが色は黒紫で毒々しく、香りと味は薄荷ハッカに近い。

 飲んでから数分は特に異変は無かった。しかし指先から手首にかけて徐々に見えなくなり、服を脱いでみればすでに下半身が完全に透けていた。

 薬の効果に、俺と友人は歓喜した。あと一時間もすれば全身が見えなくなるだろう。

 友人に感謝を述べようとしたのだが、突然腹のあたりから激痛が走った。え、と目を落とせば、友人が包丁を握っている。

「透明になったからと言って、刃物が通り抜けたりするわけじゃないんだね。あと気になるのは死んでからも薬の効果は続くのか……それまで観察させてもらうね」

 友人の冷静な声が、やけに遠くから聞こえた気がした。

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