第4話

期末テストの出来は最悪だった。さすがに勉強頑張らなきゃなあと思いつつ、気づけばスマホをいじってしまっている。はあ、と自分にため息をついて机に突っ伏した。ピコン、と通知音が鳴って開けば加奈子からのLINEだ。そのまましばらくLINEでやり取りをしていたら、下の部屋からママに呼ばれる。夜ご飯だろうか。


相変わらず眠れない夜は続いていたけど、電話をかけたのは最初の一度きりだった。何度もしようとは思ったけどしなかった。ううん、本当は出来なかった。もしこれで繋がらなかったらどうしようなんて思ってしまったのだ。そうしたら希望がなくなってしまうような気がして、暗くて寂しい夜の出口がもう見つからなくなってしまう気がして、怖かったのだ。このまま電話がつながる場所があるんだと、そう思っているだけで十分心が救われた。


ママにもう一度呼ばれて階段を下りていく。その日は珍しくパパの帰りも早くて、とても久しぶりに3人でテーブルを囲んだ。なんとなく、異変は感じていた。最近ママとパパの夜の喧嘩が減っていた。仲良くなったのかな?なんて単純に期待できるほど私はもう子供ではなくて、なんとなく、ほんとに何となく気づいていた。重い空気の中、ママが口を開く。あのね、朝霞。


「ママたち、離婚しようと思ってるの。」


不思議と悲しい気持ちは無かった。不自然なくらいに心は凪いでいて、でもそんな私にもママたちは気づいていなかった。ママはポロポロと涙を流して、パパは腕を組んで険しい顔でそっぽを向いている。私の事なんて全然見ていなかった。だから私も2人の事を見ないまま、お味噌汁を一口すする。味がしない。


「朝霞に、決めて欲しいの。」

「・・・何を?」

「ママは田舎のおばあちゃんのお家に戻る事にしたの。パパは、このままこのアパートに住む事になると思う。」


田舎のおばあちゃん家といってもここから車で3、40分ほどで、高校にも電車で通えそうだ。だから距離的にはどっちでも構わないか、あ、でも終電は何時なんだろう。なんて冷静に考えている自分が可笑しい。心と体がバラバラになっているのが分かる。私がボーっと考えていると、ついにママが嗚咽を漏らして泣き出した。ごめんね、ごめんね。朝霞は家族一緒にいたいよね、ごめんね。


その言葉に、自分の心がスーッと冷えていくのが分かった。

何それ、と思わず小さく声が漏れる。一緒にいたいも何も、ここ数年3人で出かけることも、食卓を囲むことも、話す事すらなかったじゃん。いつも怒鳴り声が聞こえて、何かが割れる音が聞こえて、私がどんな気持ちで眠れずにいたと思ってるの?ていうか決めて欲しいってなに?なんで決めさせるの?どっちを選んでも、わたしはどちらかにとっては裏切りものになるんでしょう、後ろめたい気持ちを持たなきゃいけないんでしょう。意志の尊重でもなんでもない、ただの責任転換だ。感情が次々と溢れて出てくるけど、必死にこぶしを握って耐えた、口には出したくなかった。あんたらなんかに私の大切な気持ちを知られたくなかった。自惚れないで、、わたしは、わたしはそんな子供じゃない。


喉の奥に溢れそうな言葉がつっかえて苦しい、勢いのまますべてが出てきそうになるのをこらえて、天井を睨みつける。言葉を閉じ込めている代わりに涙が溢れてきて、でもそれさえ見られたくなかった。2人の方を見ないままリビングを出て、スマホだけ握り締めて外へ飛び出した。

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