第3話
「ねえ好きな食べ物は?ボクはモンブランがすき。」
「あ、私もモンブラン好き。」
「だよね美味しいよね。食べれない人って人生半分損してるよね。」
「・・・まあ、それは無いと思うけど。」
「盛りすぎた?」
「盛りすぎた。」
私のツッコミにヒツジはケラケラ笑いながら、あ、とまた話題を変える。
「ねえねえじゃあさ、好きな色は?」
「えー・・・なんだろうラパっと思い浮かばないなあ。」
「そっか。僕はね黒が好き。」
「なんで?」
「かっこいいしかわいいから。」
「へえ。」
「あ、ねえ、朝霞甘いもの好きなの?」
「うん、好き。」
「ケーキ以外だったら何が好き?」
「うーん、何だろう。・・・でもお団子とか、好き。」
「あ~。分かる。美味しいよね。僕さこの前朝ご飯にみたらし団子食べてたんだけどさ、そしたら怒られちゃったよ。野菜とご飯をたべなさい~って。」
「誰に?親?」
「ううん。・・・友達?」
「なんで疑問形?ていうか朝からみたらし団子って・・・よく食べれるね。」
話題が変わったと思ったらまた前に戻ったり、少し振り回されるようなテンポのいい会話は久しぶりで心地よかった。そのうち頭で考える前に言葉がポロポロと零れるようになった。
よくヒツジの食生活を注意する友達はどうやら玉ねぎが苦手なようで、「ポテトサラダに入ってる玉ねぎによくキレてるんだよね。」なんて言って、ウケるよねと電話越しに手を叩いて笑っていた。から、私も思わず笑ってしまう。
「・・・ねえ、この電話ってさ、何なの?」
「だから最初に言ったじゃん。何でも話していい場所だって。」
「でもそういうのってさ、なんか違くない?もっとお話聞きますよ、みたいな感じじゃない?何でも話してくださいね、みたいに促したりさ。」
「あ、ごめん。その方がよかった?」
「いや、別に。よくない。」
「あ、そう。じゃあよかった。」
なんて軽く言った後ヒツジはふああ、と欠伸をした。電話越しなのにその欠伸がなぜかうつって、目の下の水滴を拭った。
「ねえねえ、なんでヒツジなの?」
「えー、眠れない夜っていったらやっぱヒツジじゃない?イメージだよイメージ。それになんか字面かわいいし。」
「なんの捻りもないんだね。」
「え~~辛辣。」
「じゃあさじゃあさ、なんで電話番?」
「どこにだっていつだって電話番は必要でしょう。ほら、銀行とかだってお昼とか交代でいくじゃない?電話番するためにさ。」
「なんでピンポイント。」
あのねえ、とヒツジが私の名前を呼んだ。なんでだろう、顔は見えないはずなのに、というか見たこともないのに、なぜかコロコロと変わる表情が想像出来てしまう。
「どこにだって必要でしょう。いつでも何時でも電話がつながる場所が。」
気付けば時間がかなり経過していて、珍しくこの時間に眠気が襲ってきた。それを感じ取ったのか、電話越しにヒツジもまた大きなあくびをする。「じゃあまたね、かな。」その言葉に返事をして、通話終了のボタンを押す。押す、前に。
「ねえ、あのさ。」
「ん?」
「・・・名前、なんて言うの。」
口からそんな言葉が零れ落ちてしまって、慌てて口をつぐんだ。何を聞いてるんだ、聞いてどうするんだ。ていうか教えてくれないでしょう普通に。頭の中がごちゃごちゃしたまま、やっぱりなんでもない、という前に電話越しでもでヒツジがとても優しく笑ったのが分かった。
「らむ。」
「・・・らむ?」
「そう。ひらがなのら、に、夢、でら夢。」
小声で反芻する。
らむ、ら夢。かあ。
「可愛い名前だね。」
私の言葉にら夢が少し息をのむ。少しの沈黙の後ゆっくりを息を吐いて、少し恥ずかしそうにありがとう、とこぼした。
「では、おやすみなさい。」
ら夢の声が聞こえて、そのまま通話が切れた。
少し外が明るくなり始めた午前5時前に聞くおやすみなさいは、何だかとても心地よかった。
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