夜久の話①

 「夜久、俺のふりをして叔父上の執務室を探せ。家系図を見てこい」

 「朝音兄さんは僕のふりをしてルナの屋敷にお邪魔して」

あの人を探して。



13年前。

 「夜久くん、朝音くんこんにちは」

この家の6歳の次男・朝音あさねは見知らぬ女性を睨みつけている。その弟で4歳の夜久やくは、怖いのか朝音の手をぎゅっと握っている。

「私は世那羽せなは。ちょっとだけこのおうちにいるからよろしくね」

彼女は1週間だけこの家にいた。


現在。

「起きろ!夜久。高校はどうしたんだ」

僕は兄の朝音に叩き起こされた。

「今日は入学式で、僕は午後登校だよ。言ってなかったっけ?」

僕は今年で17歳。高校2年生になる。朝音は僕の2つ上で、帝都大学の医学部に現役合格している。

「知らない。プリントはちゃんと母さんか俺に出せよ。じゃ、俺は行ってくるから」

「待って、朝音!貴久くんのネックレス忘れてるわよ」

 仏壇に向かってお祈りしていた母が朝音を呼び止めた。朝音は露骨にめんどくさそうな顔をしたが、ネックレスを持って出て行った。

「ほら夜久も。音羽ちゃんの」

僕もネックレスを受け取った。毎日つけろと母はうるさい。

 貴久と音羽は、僕が4歳の頃に交通事故で死んだ僕らの兄姉だ。暴走した車が、貴久と音羽が乗っていた車に衝突した。その時、貴久は15歳、音羽は13歳だった。僕と朝音のネックレス、は貴久と音羽が死んだときに持っていたものらしい。

「母さん、書斎にいるから何かあったら呼んで」

 母に一声かけて僕は書斎に向かった。



 

 かなどめ家は古くからある財閥の一つだ。現在は京グループとして、経済を回している。

 僕の父は京家現当主であり、京グループの社長だ。グループ傘下の企業の社長は、だいたいが京分家の人間の為、僕の父には頭が上がらないそうだ。

 僕はそんな家で生まれた為、今まで生活に苦労したことがなかった。大好きな本は書斎にたくさんある。誰から見ても幸せな人生だ。僕もそう思っていた。

 この本を見つけるまでは。

 










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