0話目

 眠れない。時計を見ると、短針は2の方を指している。

外に出ようかと思った。幸い、口うるさい兄も今は寝ている。

パジャマの上からダウンを羽織り、玄関のドアを開けた。

 家の近くに、自殺の名所として有名な峠がある。そこに向かった。

峠には小さな公園がある。そこのベンチに座った。満月がきれいだった。街灯がないので、明かりは月のみだ。

「え?」

渓谷のようになっている部分。そこで少女が飛び降りようとしていた。

「待って!」

必死に走って止めた。少女の細い体を抱きとめて、一緒に転がった。

「大丈夫?」

暗くてあまり顔は見えなかったがかなりの美人の様だった。

「ええ」

「名前は?」

「ハヅキ」

碓氷うすい葉月はづきというらしい。

「僕は夜久やく。何してたの?自殺?」

あけすけに聞いてしまったが大丈夫だろうか。

「そう。でも、もう大丈夫」

葉月は覚悟が決まったような顔をしていて、僕はそれ以上聞くことができなかった。

「連絡先だけ交換しない?」

葉月が頷いてくれたので、ちょっと安心した。

 ラインのキューアールコードを読み取りながら、僕は気づいた。

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