第13話 この先の人生、一緒に歩みませんか?

「覚えてたんだね、そうだよ、公園のお姉さん。」


「本当にあのお姉さん…、ですか?」


「そうだよ。あのお姉さんだよ。待たせてごめんね。」


「嘘じゃないです…よね?」


「本当だよ。あの日、一緒に星を見ながらお話ししたお姉さん。」


俺は声が出なくなっていた。

探していた人がこんなにも近くにいたなんて。


「最初、公園で話した時は海斗君だって知らなくって。でも公園で会った時から、少し好きになってて。考え方が大人な子だなって思って。それで三年後、私の家に来たものだから。それもあって跡、つけ回しちゃったのもあるの。」


「……。」


「相当メンタルもやられてて、人生に息詰まって、挙げ句の果てに『死』まで考えたけど、あの男の子も一生懸命生きてるんだから、私も頑張ろうって、少なからず勇気はもらってた。」


「……。」


「海斗君。私、もうダメなの。こうやって今海斗君の側に居れるまでになったけど、それまではもっと悪い子でね?」


朱莉さんはそう言うと長袖の袖をめくって、腕を見せてきた。


「!!!!!」


「ほら。私、こうやって自分で自分を傷つけて。でもこうでもしないと生きていけなかったの。どうしよもなくって。つい…。」


朱莉さんの腕には無数の傷があった。



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これが指す意味。

それはここまで精神を追い込んだであろう、周りの環境。


何も言えない俺は必死に言葉を探した。

しかしかけてあげる言葉が見つからない。


俺は朱莉さんの腕を隠すように長袖を元に戻した。


そして自然と言葉は口から出ていた。


「朱莉さんは頑張ったんです。一生懸命生きようとした結果なんです。自分を責めなきゃいけないくらい厳しかった。それでも耐えてきたじゃないですか。偉いじゃないですか。」


俺は泣いていた。


「うん。ありがとう。でも海斗君を追いかけ回したりして、犯罪紛いなことしちゃったんだよ?」


「その行為がお互いに今、何か損をしていますか?今、こうしてお互いを知ることができて、何か犯罪を犯していますか?」


「いや。犯罪は犯してない。」


「ならいいじゃないですか。なんでそんなに自分を責めるんですか?もっとじ心を持ってください。」


ストーカー行為は犯罪だろう。しかしそのストーカーが何か俺に不利益になることがあっただろうか。

今となれば『公園のお姉さん』に会えて得をしているのに。


「確かに朱莉さんはストーカー行為をしました。社会的には犯罪かもしれなです。けど今こうやってストーカー行為を認めて、謝罪をして俺も許してるんです。もういいんです。」


「本当に?」


「本当です。」


朱莉さんが堪えていた涙も限界だったのだろう。

俺に飛びついて、泣き出す。


「ごめんね。ごめんね。こんな人間でごめんね。」


「謝らないでください。」


「わぁぁぁぁ」


大きな声をあげて泣く朱莉さん。

それを宥めるように背中を摩りながら、泣く俺。


俺の人生は相当波乱万丈だと思っていた。


父親は不倫に子供まで作って。挙げ句の果てに俺らを捨てて、不倫相手と結婚。

そして母親も再婚し、育児を放棄した。


そんな人生よりも厳しい現実があるのか?と思うくらいだ。

でもそのもっと厳しい現実を過ごしてきたのは、多分朱莉さんだろう。


俺らはお互いに一度、死の淵まで行った。

しかしそこから這い戻ってきたが、まっていた人生はやはり厳しい現実。


そこから抜け出したくって、そんな現実を消したくって。


そして今に至るのだろう。


そんな俺らは何ができるだろう。

多分、人生のどん底を知ったら、あとは何も怖くないだろう。

俺は朱莉さんと一緒にこの先の人生を歩みたい。

死ぬその時まで。






少し時間が経って、朱莉さんも俺も落ち着いてきた頃。

俺は決心して朱莉さんに問いかける。


「朱莉さん。この先の人生、一緒に歩みませんか?」


「えっ?それって。」


「捉え方は朱莉さん次第ですが…。」


「この先の人生、歩みませんかって。ぷ、プロポーズ?」


「ま、まぁ。そうかもしれません。」


朱莉さんはどこか安心したような笑みを浮かべた。


「わ、私でよければ、この先の人生、海斗君のそばで歩ませてください。」


「末長くお願いします。朱莉さん。」


「こちらこそ末長くお願いします。海斗君。」









俺らはとんでもない展開で婚約的なものをしてしまった。


この年で人生のパートナーを決めてしまったのだ。


でも後悔はない。


この先の人生でこれ以上、俺と一緒に人生を歩んでくれる人は見つからないと思ったから。










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