回想話 公園のお姉さん
俺が中学一年の頃。ある日の夜、俺は散歩に出た。
それはご飯を作りに来ていた母親が愚痴を漏らしていたから。
「金がねぇ」とか「なんであいつは何もやらねぇんだ」とか。
親は離婚して、父親はどっかに行ってしまった。
離婚の原因は浮気が原因。もう子供もいたらしい。最低の父親だ。もう父親なのかも怪しい。それでも一応お金だけ振り込んでるらしいが。
母親は、俺を一人暮らしさせて、再婚した。中学生までは母親がご飯などは作ってくれるらしいが、高校生になったら完全に一人暮らし。
ある意味、育児放棄だ。
子供ながらに世話を押し付けあって、挙げ句の果てに一人暮らしさせるなんて。
そんなことするなら子供を産むなと思った。
そもそも子供は金がかかるのに。
それをお互い嫌がるなんて。
なんて奴らだ。
そんなことを考えて、俺はいてもたってもいられず、ちょっと散歩に行ってくると言って、家を飛び出た。
一旦家から離れて、心が落ち着かせようとしたが、どうも無理だった。
夏に差し掛かっていた季節に外を歩いて、涼しい風にでも当たりながら、と思っていたが、それもダメ。
一向に心は落ち着くはずもなく。
正直、このまま踏切でも行って自殺するか?と悩んだ。
逃げたもん勝ちみたいなのはないかな?って思ったりもして。
それで結局、向かったのは公園だった。するとそこには同じく考え事をしていたのか、一人女の人が座っていた。
俺は場所を変えようか悩んだが、その女の人に話しかけてみることにした。
「あの、隣いいですか?」
「えっ!?あっ、いいよ。」
「ありがとうございます。」
俺は女の人の横に座って、空を見上げた。
星が綺麗だった。
「君、中学生なの?」
女の人が話しかけてくる。
「あっ、中学生です。」
「こんな夜遅くに一人で公園なんか来て、どうしたの?」
「家にいるのが嫌になって。」
「そっか。そんなこともあるよね。」
「お姉さんは?なんで公園に?」
「んー。人生、疲れちゃってね。」
「お姉さん、今、大学生なんですか?」
「そう。大学生。だけどこの先の人生、生きるの嫌になっちゃった。」
「何が嫌になったんですか?人生の。」
「家族も彼氏も友達も。生きる上で私の妨げになるものばっか。いつも周りは自分のことしか考えてない。それは普通かもしれないけど、もうちょっと配慮してほしいなぁ。」
「お姉さんも大変なんですね。」
「君も中学生にしては大変そうだね。」
「まぁ、大変というか、僕のせいで色々歯車が噛み合ってない気がして…。いっそのこと死んじゃおうかなって考えたりもしました。」
「んー。死ぬことが正義じゃないからね。死んで正解のこともないことは無いかもしれないけど、そんなシチュエーション、多分滅多にないし。」
「お姉さん、なんで人生ってこんなに辛いんでしょうね。」
「ねー。私も知りたいよ。早く教えてほしいなぁ。生きてる意味。」
「ですね。」
俺らはこの後もくだらない話をした。公園にあった自販機で飲み物をお姉さんは買ってくれた。そしてその後も少し笑ったり、悩んだりと。
そして最後にお姉さんは俺に
「お互い辛いかもしれないけど、同じ境遇の人に逢えたら少しは頑張ろうって思えるね」
といい遂げてベンチから立ち上がった。
「それじゃ、少年よ。お互い頑張ろうな。それじゃ、夜も遅いし、早く帰りなね。」
そう言ってお姉さんは離れっていた。
その時、俺は自然と声を大にして言っっていた。
「お姉さん!またいつか、どっかで会えますか!?」
「その質問の答えは、私にも分からないなぁ。でもまた会ったら、また話そうね!」
「最後にこれだけ約束してください!」
「なーにー?」
「辛くなったらこの公園に来てください。俺もこの公園に来ます。」
「分かった!辛くなったらこの公園に来るよ!」
そう言って手を振って、行ってしまった。
その後も俺は公園のベンチで座り込んでいた。
なぜかあのお姉さんが恋しいのだ。
死のうか悩んだ時もあったのに、あんなに嫌な気持ちを抱えていたのに。
なのにあのお姉さんと話したら、心が楽になったのだ。
しかしその時間が終わると襲いかかるのは、物足りなさ。
あのお姉さんが急に恋しくてたまらない。
俺はあのお姉さんに会いたくて仕方なかった。
あの日以来、毎日公園に行ってはベンチで空を見上げ、今日こそあのお姉さんは来るかな?と心待ちにしていた。
しかし二年間、公園に通ったが、あのお姉さんに出会うことはなかった。
俺はあの時過ごした、ほんの少しの時間をまた過ごしたくて、またあの公園のお姉さんに会いたくて、また明日も生きようと心に誓ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます