前のエピソード――冒険者登録

　いつもであれば高級料理屋に行くのだが、新人冒険者（登録予定）である俺はそんな所にはとてもではないが行くことはできない。普通の価格のお店を探す。あんまりガラガラのお店は怖いし非常に混んでいるお店も面倒なので、そこそこ混んでいる安い店を探そう。

　俺は、冒険者ギルドから歩くこと30分、少し中心街から離れた場所に、条件を満たすカフェ兼料理屋を見つけた。名前を「銀の雫」というようだ。

「いらっしゃいませー。何名様でしょうか？」

「一人です」

「かしこまりましたー。空いている席にお座りください」

　お店に入ると可愛い女の子店員の指示で空いている席に座る。セミロングの髪の毛の可愛らしい女の子だ。アルバイトなのかな？いつもいる店員なら毎日通っちゃおうかなあと考えるくらい笑顔が眩しい。

「ご注文お決まりですか？」

「はい、日替わり定食を一つで」

「日替わり定食一つで、かしこまりました」

　注文を終えた俺はぼーっと考え事をする。冒険者登録終わった後の説明は長いかなあ。でも断ったら悪目立ちするしなあ……と考えていると肩をつんつんと突かれた。振り向くと先ほどの可愛い女の子店員だ。

「お客様は新人冒険者ですか？」

「はい、今登録しているところなんです。なんでわかったんですか？」

「だって、新品の剣と盾を持っているじゃないですか」

　あ、そうだった。ピカピカの剣と盾を持ってたらそりゃ新人冒険者だよな。

「あ、すいません。私は「ミオ」って言います。この店の看板娘です！よろしくお願いしますね」

「あ、カミトです。よろしくお願いします。毎日店にいるんですか？」

「はい、基本朝から午後までですが、毎日働いていますよ！しかし冒険者、羨ましいです。私も冒険者になりたかったのですが能力の問題で挫折しちゃって」

「そうなんですね。自分は農家出身なのですが強い人も弱い人も見てきたので……その辺りは運ですよね」

　適当に会話を続ける。自分は農家出身の次男で25歳、冒険者になるためにこの街に来た、と初期設定を話す。ミオはふーんという感じだ。まあ良くいる冒険者だからな。特徴がなさすぎる。しかし今は店が落ち着いているからか色々話してくれる。

　とりあえずわかったこととしてはミオは20歳と年下で料理店を開くという夢のために働いているらしい。お姉さんが二人いる三姉妹の末っ子のようだ。冒険者に憧れがあるとの言葉通り、冒険者になる心得について知っていることを色々アドバイスしてくれた。もちろん全部知っているが野暮なことは言わない。そうなんだ、ありがとうとリアクションしておく。

「あ、そろそろ店長に怒られるので戻りますねー。どうぞごゆっくり」そういうとミオは厨房に走って戻っていた。走り方がバタバタと可愛いな。うちのチームの女の子（女性）は皆静かに凄まじい速度で移動するので、普段見慣れない姿が良かった。

「はい、日替わり定食になります」別の店員から受け取ると食べてみる。うん、悪くないな。特別美味しいというわけではないが、普通以上の味だった。内装も良く、客の質も悪くないので雰囲気がいい。そしてさすが看板娘、ミオは色々な人から話しかけられていた。恋愛的な意味ではなく、皆ミオのことが好きなようだ。まあ愛想が良く可愛い女の子は男は皆大好きだろう。

　ちなみにチームのアリエッサとエリスは容姿は端麗で注目を集めるが、あまりにも性格に難があるため男から話しかけられることは滅多にない。アリエッサは虫を見るような目で見るし、エリスは無視するからね。そしてLV9という強さから男の庇護欲を掻き立てないのもあるだろう。やはり男は女の前ではかっこいい姿を見せたいものだ。

　俺はモテるのか、というと有名人ではあるので注目は集める。が、女の子からアプローチを受けることは全くない。怖くて直接聞いたことはないがどうやらアリエッサとエリスが女を追い払っているらしい。まあ俺自身も今まで恋愛に興味なく生きてきたのでアプローチしたことないしな。

　とりあえず、この店に通うのはアリかもしれない、そう俺は心の中にメモしておくのであった。ちなみにメニュー表を見ると朝はパンとコーヒーのモーニングセットを出しているそうだ。朝に来てパンを食べながらコーヒーをゆっくり飲むのも悪くないな……俺はそんなことを考えながら食事を終え、会計をし、店を後にした。