新6話 いやそうはならんやろwww

「つーわけで、うちの学校の委員長のファン軍団と決闘する事になった」


〈いやそうはならんやろwww〉

〈突然過ぎるwww〉

〈†unknown†様キター!〉

〈お呼びじゃねぇよ〉

〈失望した。登録解除します〉


 予想通り、コメントは荒れ気味だ。


 この界隈の常識として、異性コラボは荒れやすい。


 特に未来は可愛さで登録者を伸ばした配信者だ。


 確認するまでもなく、リスナーの大半は男だろう。


 そこに男の時継が加わったら荒れるのは確実。


 炎上だってあり得る。


 折角バズって増えた登録者を失う事になりかねない。


 その事については事前に未来と話し合ったのだが。


「それでもいいよ! 私はネットアイドルになりたくて配信を始めたわけじゃないの! 愛敬堂の味を広めたくて配信やってるの! その為にはもっと多くの人、色んな層に配信を見て貰わないと!」

「だからってなんで俺なんだよ……。委員長なら相手なんかいくらでも見つかるだろ?」


 UOは大人気ゲームだ。


 学校でもやっている人間は大勢いる。


「九頭井君は実績あるもん! 一日で登録者千人も増やしてくれたんだよ! そうじゃなかったら、私だってこんな冒険したりしないよ!」

「たまたまだって」

「たまたまで千人も伸びる程配信は甘くありません!」

「まぁそうだけど……。俺はただ委員長の面白さを引き出しただけだぜ?」

「だったらなおの事九頭井君が欲しい!」

「欲しいって言われてもな……」


 時継だって男の子だ。


 みんなの憧れる学校のアイドルに面と向かってそんな事を言われたら嫌な気はしない。


 だが、安易に受けて結果を出せなかったらかなり気まずい事になる。


 それに、正直な事を言えば報酬もなしに配信の手伝いをするのはちょっと面倒くさい。


「勿論タダとは言わないよ! 協力してくれたら愛敬堂のお菓子食べ放題!」

「マジかよ!?」


 最中だけでも一個四百円もするのだ。


 それが食べ放題というのはかなりお得なのではないだろうか?


「って、待てよ! 和菓子なんかそう何個も食べられないだろ!?」


 愛敬堂の和菓子なら幾らでも食べられそうだが、元を取れるくらい食べたら虫歯になるか身体を壊しそうだ。


「じゃあ私のチャンネルの収益も半分つける! これならどう!」

「しゅ、収益の半分だと!?」


 流石にこれには目がくらんだ。


 素人の個人勢の癖に、未来はたった三か月で登録者を3000人まで増やしたのだ。


 そして先日は、ちょっと配信を盛り上げてやっただけでプラス1000人だ。


 切り抜きチャンネルにも取り上げられ、注目度は急上昇中。


 これからの活動次第では、まだまだ伸びる可能性がある。


 そこから得られる収益を考えると、半分だってかなりの額だ。


 放課後にちょっとクラスメイトの美少女とゲームをして小遣いが稼げると考えれば、かなり美味しい話である。


「いや、でも、流石にそれは不味くないか?」

「私は九頭井君にそれだけの価値があると思ってる。一緒に配信やるんなら、仲良く半分こが妥当でしょ?」

「……委員長がいいならいいけどよ」


 結局それで押し切られてしまった。



 †



「で、そこに並んでる有象無象が話を聞きつけて文句言ってきた委員長のファン軍団な」


 キャラ作成時に訪れる事になる始まりの街、パラディソ。


 その郊外にある拓けた野原に時継達は集まっていた。


「有象無象じゃない! 俺達は愛敬さんを見守る会だ!」

「お前みたいな生意気な一年坊主に愛敬さんを任せられるか!」

「愛敬さんの配信に男なんか必要ない!」

「お前に勝ったら俺が愛敬さんのパートナーだからな!」


 戦士や弓使い、魔法使いと思われる面々が口々に喋る。


 中身は全て時継が通う学校の生徒である。


 未来が時継を配信に誘ったと聞いて、放課後にぞろぞろやってきたのだ。


 未来がなにを言っても聞きやしない。


 それで時継は言ってやった。


「わかったわかった。一対一で勝負して誰か一人でも俺に勝てたらこの話はなかった事にしてやるよ」

「九頭井君!?」

「平気だって。俺つえーから。どうせお知らせ配信はクソ荒れるだろうし。俺が強い所を見せてやれば少しはリスナーも納得するだろ。配信的にも面白いから一石二鳥だ」


 そんなやり取りがあったのだが、いつの間にか勝ったら未来と一緒に配信出来る事になっているらしい。


「待って下さい!? 私、そんな約束してません!?」

「別にいいだろ。どうせ俺が勝つんだし。そっちの方が面白そうだ」


〈確かにwww〉

〈いや、誰が勝っても嫌なんだが〉

〈未来ちゃんが決めた事なら俺は従うぞ〉

〈わけわかんねー奴よりは†unknown†様のほうがいいだろ〉


「安心してください! 僕が勝ったら権利を放棄します!」


〈がんばれモブ男!〉

〈このチャンネルの未来はお前にかかってるぞ!〉


「あうぅ……。どうしてこんな事に……」


 混沌とする配信に未来が頭を抱える。


「普通にお知らせやるよりは荒れてねぇし、配信的にも盛り上がってなによりじゃねぇか」


 実際、同接は前回の配信を上回って過去最高記録を更新し続けている。


 リスナーの中には†unknown†の再登場を望む声も多く、それについては告知していた。


 そこにこのサプライズ企画で、かなりの盛り上がりを見せている。


「そんじゃ、数も多いしサクサク行くか」

「一番! 紅蓮の剣士サークライ! 行くぞ!」


 赤い鎧に身を包んだ剣士がゲーム内で決闘を申し込んでくる。


 UO世界は二つの大きな世界と、それらに内包された無数の小世界に別れている。


 大きな世界は秩序オーダーワールド混沌カオスワールド


 基本的に攻撃や盗み等の他プレイヤーに害を与える行為は混沌世界でしか行えないのだが、決闘という形であれば秩序世界でも可能である。


 こちらは模擬戦のようなもので、HPがゼロになっても決闘モードが解除されるだけで死ぬことはない。


〈こいつ絶対桜井だろwww〉

〈がんばれ桜井www〉


「う、うるさい! 俺はサークライだ!」


 桜井が緋色の長剣を構えて斬りかかる。


 このような色付きの武器はネオン武器と呼ばれており、通常の武器が物理属性オンリーなのに対して、それ以外の属性を宿している。火なら赤、氷は青、雷は黄色、混沌は緑といった具合だ。


 ちなみに、炎50%、氷50%などの場合はそれぞれの色をその割合で足した色になる。


「ほいっと」


 †unknown†とサークライが交差する。


 †unknown†のHPが二割程削れたが、サークライのHPはほとんど減っていない。


「はっ! そんなゴミみたいなダガーで俺を倒せるわけないだろ!」


〈マジでゴミみたいなダガーだな〉

〈てかこれ店売りのNQノンクオリティー品じゃん〉

〈舐めプにも程があるだろ〉


 NQ品とはなんの特殊効果もついてない通常品である。


 対するサークライの武器には、ダメージアップ、攻撃速度アップ、ヒット時確立で【火球ファイヤーボール】発動等、様々な特殊効果がついている。


「それくらいのハンデがないと勝負にならねぇって事だ」

「なっ!? ふざけるなよ!」


 再び斬りかかる桜井をひょいと避ける。


「お前がそれを解毒出来たらもう少し真面目に戦ってやるよ」


 次の瞬間、サークライの身体が緑色に染まり、HPの四割程が吹き飛んだ。

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