第41話 ギルドハウスを買いに行こう
「すご~い! これが全部プレイヤーのお家なの!」
通りに並ぶ個性的な家々を眺めて未来が言う。
「派閥都市って奴だ。混沌世界では四つの派閥が勢力を争ってて、派閥本部のある街を統治してる。街のレイアウトから公共施設やNPCの配置、法令や税率と、その辺を詳しく説明すると長くなるから割愛するが、派閥都市の敷地は他の都市と違って例外的にプレイヤーの家を建てられる。で、大抵はこの通り有名ショップになってるってわけだ。ちなみにここは
〈元々はメイジ評議会だったんだけどな〉
〈元々ってなに?〉
〈デフォの名前。アプデで変えられるようになったのよ〉
〈キノコの山最強団みたいな派閥にも出来るって事?〉
〈派閥議会の投票で過半数取れればな〉
十年以上前の話である。
賛否はあったが、お陰で過疎化していた混沌世界に活気が出た。
ある意味、今のAOの人気の一端を担うアプデだったと言える。
「でも凄いね。自由度が売りのゲームだって聞いてたけど、不動産屋さんまであるなんて」
感心した様子で宗也が言う。
「ゲーム内の土地を使う都合上新しい家を建てるのは大変だからな。かなりの人手と組織力がなけりゃ不動産なんか扱えねぇ。それこそ専門の超大手ギルドか派閥商人くらいだろ」
「確かに……。僕も一週間くらい色んな所探し回ってやっと最小サイズの家建てられたし」
「言っとくが、それでもかなり幸運な方だぞ」
AOは大人気ゲームなので、基本的に空いた土地など存在しない。自力で家を建てるなんて、アプデで新しい土地が追加でもされない限りまず無理である。
〈不動産屋以外にも面白い店は沢山あるぞ〉
〈劇場に闘技場、本屋に冒険者の店なんてのもある〉
〈ダンジョン屋とか博物館とかあげだしたらきりがないよな〉
「なにそれ! 面白そう!」
リスナーのコメントに未来が食いつく。
劇場は文字通り、プレイヤーが演劇を行う店だ。
その為の劇団ギルドなんてものもあり、客寄せの為に派閥は多額の報酬を出して人気の劇団ギルドを雇っている。
闘技場では様々な条件のもと行われる対人、対モンスター戦が観戦でき、賭け事も行われている。有名PKの戦闘を生で見れるという事もあって人気は高い。
本屋だが、AOには【本】というアイテムがあり、自由に中身を書き込める。
それで自作の小説やエッセイを書いて売っている者がいるのだ。
冒険者の店はプレイヤーがダンジョンやイベント、クエスト等の攻略の為の仲間を探す場所である。同じ目的のプレイヤー同士で行ってもいいし、冒険者の店に所属するプレイヤーを雇ってもいい。後者は観光案内やゲーム内にはない実践的チュートリアル(時継が未来に施したようなもの)を行ったりもしている。
ダンジョン屋は派閥都市に建てられる特殊な建造物で、ダンジョンメーカーに命じられたプレイヤーが作成したオリジナルダンジョンを体験できる。正統派から脱出ゲーム物まで内容は幅広い。
博物館は文字通り、AO内の様々なアイテムを収集した見世物屋である。今では手に入らないレガシー品や一般人には手の出ない高級AF、神装備や内装品、様々なアイテムを上手く重ねる事でゲーム内に存在しないオブジェクトを視覚的に再現するデコレーションアートなど、珍しい物が色々見られる。
「後にしろよ。ギルドハウスを買いに来たんだろ」
「そうだった! 危ない危ない!」
時継に突っ込まれて未来がハッとする。
始まりの街とオーガ窟以外ろくに知らない初心者の未来である。
派閥都市はテーマパークみたいなものだろうから、はしゃぐ気持ちも分からないではない。
「でもいいの宗谷君? ボルガ人形売っちゃって。記念に取っておきたいって言ってなかった?」
「安いアイテムならそうしようかと思ったけど。3Mもするなら独り占めには出来ないよ。二人には迷惑かけちゃったし。お詫びってわけじゃないけど、僕らのギルドハウスを買うお金の足しにして欲しいなって。これからもみんなでAO配信するなら拠点があった方がいいだろうし」
ボルガ人形の値段が分かった後、宗也が売ってギルドハウスを買う資金にしたいと言い出した。
「そんなのダメだよ!」と未来は遠慮していたが、「僕が欲しいんだよ。その方が仲間って感じがするし。勿論愛敬さんが嫌なら無理にとは言わないけど……」
そこまで言われたら未来も嫌とは言えない。
時継的にもいい加減始まりの街の野原で配信を始めるのは締まらないと思っていた所なので、未来の家兼ギルドハウスを購入するべくデカい不動産屋のあるグレイヘイブンに二人を連れてきたというわけだった。
〈宗谷マジ良い奴かよ〉
〈正直イケメンより女の子増やせって思ってたけどこいつなら許すわ〉
〈それに比べてこっちのクズは〉
「あぁ? 俺はボルガ人形の代金と委員長の分を立て替えて実質一人で9M出すんだぞ。こっちの方がよっぽど優しいだろうが」
現実と同じくAOにおいても家は高価な買い物だ。
正直に言って、3Mぽっちじゃ犬小屋だって買えはしない。
そもそも三人のギルドハウスなのに宗谷一人に負担させるのは違うだろという話にもなり、一人3Mで合計9Mを予算とする事にした。
勿論貧乏初心者の未来がそんな大金を持っているはずがないので、出世払いで時継が貸す事になった。
まぁ、二人にとっては大金でも時継にとっては小銭みたいなものである。
くれてやっても構わないし、なんなら一人で百倍の予算を出してもいい。
だが、それではなにも面白くない。
この右も左も分からないド素人共に歩幅を合わせて四苦八苦するから面白い配信になるのだ。
そういうわけで他の三つの派閥それぞれに良い顔をするどっちつかずの商人派閥、グレイヘイブンの街を進んでいく。
「ここだ」
「わ~! おっきぃ! お城みたい!」
「……っていうか、普通にお城だよね」
†unknown†が足を止めたのはAO内で建築出来る最大サイズの敷地に立てられた、荘厳な白亜の城である。
ステンドグラスの間には青い垂れ幕が下がり、デカデカと屋号が記されている。
〈
〈
〈わい初心者、素人でも分かるように説明してくれ〉
〈グッチの本店〉
「えぇ!? グッチの本店!?」
「それはちょっと、流石に場違いじゃないかな……」
途端に二人が慌てだす。
「ただのデカい家屋だ。びびんなって」
†unknown†が店内に入ろうとすると、入口に立っていた黒甲冑のガードマンが前を塞いだ。
「お客様。ご商談のご予約はおありでしょうか?」
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